あまてらす 4.浦島太郎現象

浦島太郎現象

 

さて、高性能のTMT望遠鏡で1億年前の惑星を見ることは、容易である。たとえばある惑星Aを望遠鏡で映し出すと、そこに出てくる映像はA星の1億年前の状態を映し出しているというたとえができる。1億年前と言わずにもっと近いB星は1000万年前の状態を映し出すことも可能だ。いや、星によっては1万年前、1000年前、100年前の状態も可能である。

そこでF1STの責任者である早瀬は考察した。普通の人がわかる(つまり資金源の財界トップたちが理解しやすい)100年を基準にしてみると、100年前のB星を見ることができるということは、逆に考えると地球の100年後を見ることも理論的には可能となるわけだ。それも100年ということを考えるとそう遠くない宇宙の距離において可能と考えた。例えば、我々が見る太陽の姿は、8分程度昔の姿であり、昴(すばる)として有名な散開星団M45は400年程度昔の姿である。100年後の地球を見るためには大雑把に言ってその散開星団までの4分一の距離とみていい。その距離に逆行して到達し、そこから地球を見るとなんと100年後の地球を見ることができるという理論である。

早瀬博士が主唱し建設されたこの四国カルスト天文台」の本当の使命はここに述べた「特別な目的を遂行するための任務」にある。相対性理論に基づき宇宙を飛行して100年後の地球を撮影してくることにある。樺山氏はこの構想を着想し、できれば自分の生きているうちに100年後の地球の画像を見たかった。しかし研究は困難を極め、とうとう樺山氏が亡くなった後に理論に基づく宇宙船あまてらすが完成した。早瀬博士も引退し、残った研究者たちがそのあとを継いで発射に至ったのである。

その理論をもう一度考えてみよう。

相対性理論では、光の速さで飛ぶと地球時間においては地球より遅く進むといわれている。例えていうと、正確な数値ではないが宇宙での光速度での1日は、地球では12日に相当する。1光年とは、相対性理論ではこれ以上の速度はないと言われている光速(秒速約30万キロ)で1年かかる距離、約10兆キロのことを言う。遙か遠い場所から、有限の速度しか持たない光が届くまでには、距離に応じた時間が必要となる。そして宇宙は広大なため、光の速度ですら何年もの時間がかかる。従って、今見えている星の姿とは、過去の姿なのだ。

たとえば、民話で有名な浦島太郎の話は実は現実に起こりうる物語なのである。浦島太郎は海の中の竜宮城で過ごしたが、この竜宮城はいわば宇宙の中の光速船に相当する。竜宮城で楽しく過ごした太郎が、海から出て世の中を見るとまったく見知らぬ人々のいる世界になっていた。悲感して玉手箱を開けると白い煙が出て一気に白髪白髭の老人になったという結末だが、老人になるということを除いて同じ状況が生じるのである。宇宙から帰還すると、両親はすでに亡くなり、友人たちや妻は老人になり自分の子供が年上になっているか、もしくは世の中が全く変わり知っている人物が誰もいないということにもなる。