八.火の国まつり ①

 火の国まつりの踊り子が下通りを練り歩いている。今日はおてもやん総踊りの日である。

おてもやん

あんたこの頃 嫁入りしたではないかいな

嫁入りしたこたぁ したばってん

御亭どんの ぐじゃっぺだるけん

まあだ盃あ せんだった

 熊本っ子が西日本一と自負している広い下通り商店街も人、人、人である。夜には江津湖で花火大会があり、新聞記事では例年一〇〇万人以上の観客が集まるというから、日本の祭りの中でも大きな方である。阿波踊りが一三〇万人というから西日本一の座は譲るとしてもそれに次ぐ規模かもしれない。

 熊本に帰ってからは初めての火の国まつりであるが、おてもやん総踊りは何度見てもどうも余り好きにはなれない。電力会社や銀行、飲料会社など地元の企業や同好会など合計五〇〇〇人を超える踊り子が連を組んで踊っているが、どうも練習時間不足かお疲れのようで手や足の動きがばらばらな連が多い。見ていて面白い踊りではないなといつも思ってしまう。

 かつて徳島で阿波踊りを見たことがあるが、あちらの方が盆踊りとしては最高だと思っている。阿波踊りでは「踊るあほうに見るあほう 同じあほならおどらにゃソンソン」という掛け声が出るが、阿波踊りは見ていて楽しいのだ。笠をかぶった女性が下駄を爪先立ちで踊るたびに、くるぶしあたりがちらチラッと見えるのに色気を感じたことがある。男性週刊誌を見るとヌード写真がオンパレードであるが、そういった全身ヌードよりも踊り子のくるぶしに色気を感じるのはどういうわけだろうか。

 踊りそのものも男性と女性で踊り方が違い、一人一人の踊りかたも少しずつ違う。阿波踊りは奥深いなと感心したものである。

 熊本の祭りでいいなと思うのは山鹿市の灯篭祭りである。火の国まつりと同じころに開催されるが、とくに千人灯篭踊りは圧巻だ。その名のとおり千人ほどの女性が紙製の灯篭を頭に載せ、ゆったりとした舞を見せる。

 この祭りの起源は日本書紀のころとも言われ伝統あるものであるが、意外と全国に知られていない。「よへほー、よへほー」という合いの手と共に千個の明かりが揺れるさまはまさに幻想的である。早瀬はこの踊りがあまり知られないことを心の底では望んでいる。それでも最近は約三〇万人位の観光客がこの踊りを見に来るそうであるが、これが一〇〇万人にもなればこの小さな町が人息で息苦しくなりそうである。あんまりさびしいのもだめだが、隣の人と肩触れ合わない状態でゆっくりと見たいものだと思う。

 先日機会があって、天草下島牛深市のハイヤ節を地元の女子高校生が踊るのを見たが、これはよかった。

♪ハイヤエー、ハイヤ

 きた(北)かと思えば、またハエ(南)の風よ~

 風さえ恋路のサーマ、邪魔をするエ~

 ハイヤ節は漁村のおばちゃんたちが踊るものという記憶があったところへ、女子高校生が実に元気のいい踊り方で、掛け声も明るく飛び跳ねるのはまことに見ていて楽しかった。このハイヤ節は船乗りたちによって全国に広がったといわれている。佐渡おけさ、北海道のソーラン節、そして阿波踊りの源流といわれるのである。いわば民謡の原点のようなものだと思う。だから熊本人はこういったことにもっと関心を持ち、おてもやんの踊りよりもハイヤ節の方を前面にだした方がよいのではとも思っている。しかし一晩どころか一時間でもあれだけ飛び跳ねるのは体力が要るだろう。踊り子が激減するかもしれない。