十二.フィナーレ ②

 一月中旬に全国電話応対コンクール地区予選があり、熊本では見事に清水好江が二位、金山美佐が三位に入った。初出場で二位と三位に入り、このことは熊日新聞で大きく取り上げられた。一位は毎年上位に入っている鶴屋デパートであった。

 本部長は大喜びであったが、早瀬は一位でなかったのが不満である。

 三位までは九州大会に出場できる。七県二一人が入賞を競い、ここでも三位までは全国大会に出場できる。

 早瀬は九州大会での優勝を命じた。清水と金山に対する特訓が始まった。

 シナリオは同じであるが、熊本大会での状況を見た指導員が問題点を書き出してくれたので、その点を改善しながら特訓を開始した。

[熊本大会での問題点]

  • 時間を気にしすぎていて、後半少し早口になった。語尾に不明瞭個所があった。

   ・過剰演技はだめ。

  • 審査員は応対の場面は見ずに、電話の声を聞いて審査している。電話を通しての声の感じの良さをだすこと。甘えっぽい声やつんけんしている感じはだめ。

   ・最低必要なことをゆっくり話す。不要な部分は捨てる。

 そして二月始めの九州大会では、なんと金山が優勝である。地方予選で三位の金山が頑張って逆転をした。

 この九州大会には石川次長に付き添いを命じ、主任と清水・金山の四人で行かせたが、まさか金山が優勝するとは予想していなかった。

 二週間後には東京で全国大会である。

 そんなある日、柴田本部長がぶらりとやってきた。

「早瀬君、社長が急にこられるぞ。珍しいこっちゃ。物流本部にこられるのも珍しいが、君のとこにも行く言われてな」

 本部長は上機嫌である。織田が物流本部にこられることは年に一回か二回あるかということは予てからきいていた。

 社長がこられるとなると、物流本部全体で大掃除が始まった。雑草もきれいに抜かれた。織田は植木にも関心を持っていて、物流本部の広大な敷地の周辺は見事な木が囲んでいる。以前に数本の木が害虫にやられ枯れたとき、当時の本部長に「木も育てられないようで、人を育てられるものではない」と激怒したということも耳にしている。

 石川に聞くと社長が顧客応対部に来られるのは、発足したときにこられて以来、初めてとのことである。石川はさっそく部内の整理整頓と掃除を計画し実行した。もちろんオペレーターのデスク回りや端末画面もきれいにした。

「早瀬君、どうだ。頑張ってるらしいな」社長は柴田本部長をはじめ物流本部勤務の役員や社長室長をしたがえて部屋に入ってきた。

「はい、ありがとうございます。みんな良くやってくれますので」早瀬はぺこりと頭を下げながら久しぶりに見る社長の顔を見た。精悍な顔つきは機嫌良さそうであった。

「柴田本部長からいろいろ聞いているが、やはり私の見込んだだけのことはあるな」

「恐れ入ります」顔が赤らむのを感じながら、社長を窓際の書類棚へ導いた。

書類棚には九州ブロック大会優勝のトロフィーがあり、窓際には優勝旗が脚立に立てられていた。

「これが、優勝旗とトロフィーです」といいながら金山と清水を呼んだ。

「優勝者の金山と、上位入賞の清水です」

社長はトロフィーを手にとって見ていたが、振り向いて、

「良くやった。ウチは通販会社だから優勝は当然というものもいるが、初出場で会社の名誉を高めてくれたな。次は全国大会か」

「はい、東京で一〇日後です」

「そうか、金山君、ひとつ頑張ってきてくれ」

 織田はにこにこしながら部屋を出て行った。