あまてらす 1.西暦2046年

西暦2046年

 

「本日、通信なし」

「本日、通信未着」

というのが毎日の報告となって久しい。

研究所では、すべて予定通りに飛行しているという想定の下できわめて少人数による日常の運営が行われており、別に毎日「通信なし」と報告することもないのだが、それぐらい言わないと1日中、一言もしゃべらない研究員が出てくるのである。

 

日本の新たな宇宙探査船あまてらすが打ち上げられて13年になる。あまてらすは「特別な任務」であるFSTプロジェクトを帯びて、太陽系をはるかに超えて光の速度で飛行中だ。あまてらすから送られてきている通信は、日本宇宙科学財団四国カルスト研究所にて受信している。

通信限界を超えた12年前より連絡は途絶えているが、もちろんそれは予定通りで、現在もはるかかなたの宇宙で船内の航法プログラムにより自動航走をしている、と推定されている。あまてらすが計画された目的域に達すると、搭載されている超望遠・超高感度カメラにより対象物に焦点を合わせ自動的に撮影し、再び通信可能な空間まで帰ってくるようにプログラムされているのだ。

 

ET(地球外生命)を電波で探査しているアレシボ天文台をはじめ、世界各地の電波天文台ではあまてらすからの電波を12年前まで傍受していた。ただし、今回の特殊な目的のために通信は高度に暗号化されているため、四国カルスト研究所以外で受信しても解読できないでいた。

このあまてらすの目的は単なる「未知の宇宙探査」として公表されているが、世界各国の政府や天文台、学者からこの目的を疑問視する声が上がっていた。この探査船の目的は何か、なぜ信号を暗号化しているのか理由が不明であるなどとし、解読キーをオープンにするよう強い要請が毎日のように来ていた。しかし通信が途絶してからは、その声は出なくなった。「幸いにも」消滅もしくは行方不明になったとみているようであった。しかし、あまてらすは着実に飛んでいるのである。