2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

五.社内販売 ⑧

堀は約束通りその日一杯、社内を走り回って稟議書をまとめあげた。こういったことは堀の独壇場である。社内の各部署に顔の聞く堀でなければこれだけ短時間にはまとめられないだろう。 部長・本部長には早瀬が口頭で説明した。部長の木下は自分の知らないとこ…

五.社内販売 ⑦

二日後の朝、一区切りついた手を休めて係長に声をかけた。 「堀君、例の件はどこまで進んでいるの」 「はい、例の件といいますとどれでしょうか。いろいろやってますので」 部長の木下がこちらを見ていたので堀は改まった口調になった。 「社内販売とエリアマー…

五.社内販売 ⑥

「まあ、そんな怖い顔するなよ」 「次長、チラシを刷って商品に同送して在庫処分するというのは、もともと堀係長の案でしたから」 「そうか。それはいいところに目をつけたな。しかし僕が言わんとしているのはけちをつける意味じゃないよ」 「どういう意味ですか…

五.社内販売 ⑤

(何か仕事で失敗でもしたのか、俺が何かまずいことでも言ったのか) 頭の中をスキャンしたが、思いつく理由は見当たらなかった。しかし、 (最近ほとんど声をかけていないからかな。投書されていたので仕方ないじゃないか) とも思いながらぼんやりと前方を…

五.社内販売 ④

「滝川君、こんなに二年前の商品が残っていたのか。商品ごとの発注数量と受注数を言ってみろ、それに担当バイヤーは誰か」 織田は商品本部長や商品部長を前に並べて怒鳴っていた。年が明けてもう二月である。予想どおりの厳冬で一月にカタログを配り終えたとい…

五.社内販売 ③

早瀬が初めて女性とデートしたのは、高校一年になってからであった。水前寺公園で待ち合わせをした。手紙を出してこの場所に誘ったことを覚えている。文面は忘れた。公園で女子高校生の彼女が来るかどうかドキドキしながら待ち、こちらへやってくる姿を見つ…

五.社内販売 ②

さて稟議の話に戻るが、先日も若い部員が社長のサインのある稟議書を掲げて「社長承認済み」と、関係部署をまわり強引に仕事を進めたことがあり、早瀬は当該部署からいやみを言われたものである。 稟議書というものは時間はかかるがその間、関係部署が中身に…

五.社内販売 ①

サフィールは創業社長の強い個性で、ある意味では個人商店を大きくしたような会社であったから、組織論でいうところの責任と権限の一体化、命令系統の一元化などは殆ど通用していないのが実態である。 社長の織田はスピード経営ということを社内でよく訓示し…

四.ブロード・キャスティング ⑦

「次長、商品部に連絡しましょうか」 堀が話を聞いていたらしく、近寄ってきた。 「うん、そうしてくれないか」 「部長がいないと、きまって社長が来られますね」 竹中課長が椅子に座ったまま振り向いて話し掛けてきた。 「様子を見に来ているのだろうな」 早瀬はそ…

四.ブロード・キャスティング ⑥

「早瀬君、在庫処分チラシは順調に進んでいるかね」 いつものようにぶらりと部屋に入ってきた織田は、早瀬の顔を見るなり声をかけてきた。 一般に、物事を達成すると脳からエンドルフィンが放出されるという。このエンドルフィンは満足感と恍惚感を与える作用…

四.ブロード・キャスティング ⑤

「次長、決裁や」部長が大きな声を自席からかけてきた。堀との話が少し長引いてしまったようだ。かつての上司と部下が逆転したいま、部長と堀はお互いに敬遠しているようなところがあった。その上、早瀬と堀が親しそうに話をしているのがあまり気に入らないよ…

四.ブロード・キャスティング ④

三週間ほどした後、部内の会議で部長がおもむろに話しはじめた。 「君たちだけで留めておいて欲しいのだが、ブラウスの国内生産でね、商品検査部と商品部で意見の相違があって、結局社長決裁に持ち込まれてね。結局、ブラウスの追加発注分の入荷は今後まだま…

四.ブロード・キャスティング ③

翌朝は深夜からのひどい雨が続き、徒歩通勤の早瀬はコートを着ていたのにズボンを水浸しにして会社に着いた。 「次長、おはようございます。ズボンがかなりぬれていますね」 今年入社の袴田が元気よく声をかけてきた。マーケティング部には今年五名もの大卒が…

四.ブロード・キャスティング ②

「もちろん、うちの場合は店舗が無いのでその点、打つ手は限られてくるけどな」 「しかし、次長も流通業界を渡り歩いているだけのことはありますね」 「何言ってるんだよ。で、ブラウスの欠品がとくに多いのかい」 「商品部の者に聞きますと、その商品提案をした…

四.ブロード・キャスティング ①

「次長、ブラウスの欠品でクレームが殺到しているようですよ」 社内で何かあるとすぐに教えてくれる堀が、少し離れたところに座っている木下部長の様子を窺いながら小声で言った。 「今年の秋冬物は欠品だらけじゃないか」 「ご存知のとおり昨年がかなりの過剰…

三.たてがみ ⑨

「ママ、今日はよか人を連れてきたとよ」 「まあ、うれしいこたあるわね。こちらどなた?」 「――さんの上司」 早瀬はカラオケの音で聞こえにくいので、 「誰の上司って?」と聞き返した。 「あそこでお客さんと歌っとるとじゃなかと」 スポットライトを浴びて歌っ…

三.たてがみ ⑧

「おい、それはひどいじゃないか。青少年条例に引っかかるぞ」 「そんな条例が熊本にありましたと。で、その後二度三度とホテルに連れこんだといいよると。こんだぁ飯島の方が性に目覚めたというか・・・」 「開発されたか」 「いまじゃ飯島の方から『行こう、行…

三.たてがみ ⑦

「そして劇場内の気持ちが一体化していったんだ。そして全員が感動していったんだ。もちろん劇は大成功さ」 「さかしか、子供の配置がポイントだったばってん」 「そのとおり、よくわかったね。僕はここにマーケティングの真髄があると思っているんだけどな」 「よ…

三.たてがみ ⑥

「五年ほど前たい。課長だった時にいまの部長が平社員で入社してきたと。前の会社は福岡の小さなスーパーの子会社の婦人服チェーン店の、それまたちっちゃな店の店長ばってん。入ってきた時は『こんな男、使い物にならんと』と思ってたたい。ばってん初めのう…

三.たてがみ ⑤

「僕が来てからも異動が多いけど、まったくひどい話だね」 「次長の場合は部長が教えてくれなはってよかったと。社長一人で判断して役員や部長にも知らせないこともあるばってん」 「社内では廃止の声は出ないの?」 「一昨年でしたか、副社長が朝礼で、投書する時…

三.たてがみ ④

その同じ焼鳥屋である。 マーケティング部には男性社員は多いが、二〇代の社員が多く三〇代は数人しかいない。その中でも社歴の古い堀とは妙にウマが合い、上下の関係を抜きにして話ができる。早瀬の入社歓迎会が開かれたとき、「公式」の会がはねたあと堀が…