十二.フィナーレ ⑥

「部長、外国人のようなんですが、代わっていただけますか」オペレーターの一人が遠慮しながら、しかし部長だから英語ぐらいしゃべれるだろうと当然のような顔で言ってきた。

「英語か」英語なら少しはわかる自信はあった。しかし電話の英語は表情が見えなくて難しいことも経験していたので躊躇せざるを得なかった。

そこへ次長が寄ってきて、

「部長、受注課のパートさんの大谷さんは前職で英語を使っていたようですので、頼んできましょうか」ニコニコしながらいった。

「それはありがたい」早瀬はほっとしながらも、自分の英語力を示せなくて少し残念な気もした。

 部屋の出口に近いブースに座っていた大谷さんがヘッドフォンをかけたまま次長にうなづいていた。電話は転送されたようだ。

 後で次長に聞くと、これまでも英語の電話が入ると大谷さんに依頼していたようだ。

「これはいい。大谷さんについては全員公認のようだ。これをきっかけにして語学の得意な人を洗い出してその人たちをまず浮かび上がらそう」

 社員カードを見ればすぐわかることだが、その後の資格取得もあるかもしれないと思って公平を期すためにわざと全員にアンケートをし、申告させた。その結果、語学に関しては英会話が得意な人が二人、実用英語検定TOEICの上級レベルが一人、中級以下の人が四人、英語以外ではスペイン語や中国語、韓国語を話せる人もいたので驚いた。

 最近は日本にいる外国人からの注文が増えてきており、日本の下着類のよさを気に入って注文してくる客もいた。外国人からの直接の電話注文である。また海外在住の主婦らが海外の衣料品はサイズの大きいのが多いので小さなサイズを求めて注文してくることもあった。そこでこういった外国語を話せる人のリストを作成し、外国語の電話があるとその人に転送する仕組みを作ったのである。このときはねたみも無かったようだった。自分がどうがんばっても太刀打ちのできないことで、しかもいつ自分のヘッドフォーンに外国語が流れてくるかも知れず、そのときにはお世話になることを考えると、ねたみは発生しないものらしい。こういった地道なことをしていっているおかげかもしれない。投書が無いか少ないようなのは。

 しかし、投書制度は部内だけの問題では無かった。会社としての問題である。

 本社から離れている部署の一管理職が自分の部内だけで改善をしようとしても限界がある。といってそのために社長のところに出かけて行くのも勇気がいることであった。そこで投書制度を逆に利用しようとしたのである。

 投書だけは必ず織田社長が直接読んでいる。それなら投書という形で改善提案をしようと考えた。そのことで本社に呼ばれたらそのときは口頭で意見を述べればいい。早瀬は現在の投書制度の弊害とまたよい点をまとめた。つまり投書制度のメリットとデメリットの両面を考えていったのである。そして本部1階の投書箱に投入した。