2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

八.火の国まつり ⑥

受注時間の延長、フリーダイアル、外注と電話関係の改善ができたので次のテーマを入金処理課の黒田課長と話した。黒田はマーケティング部の堀と似たところがあり、一件無頓着なようでいて、そのくせ気配りがうまい。ただ人脈的には堀のように社内全般に通じ…

八.火の国まつり ⑤

社長の決裁にはなぜか起案部署の早瀬が呼ばれず、柴田本部長が本社の会議に出席している時に、本部長の言葉によると「あっけなく決裁された」。部内だけでなく、本社内でもフリーダイアルを織田が決裁するとは誰も予想してなかったので驚きの声が出た。 部下…

八.火の国まつり ④

年間での業務の繁閑の差が激しいので、オペレーターの増員は認められなかったが、その代わりパートについては毎年契約更新しているので、その更新時に夜間勤務手当割り増しの条件をつけて、シフト勤務への了承を求めることになった。 ただ、次回の更新月まで…

八.火の国まつり ③

「石川次長、外部の調査会社の資料を見ると、一般的にお客様が通信販売会社に電話注文する時間としては、やはり夜が多いようだけどウチではどういう状態ですか」 「はい、時間帯別着信率と不通率を調べたデータ―があるのですが、いまの受付の時間内では朝九時…

八.火の国まつり ②

サフィールのいいところは正月休みと盆休みがきちんと設けられていることである。スーパーでは最近、正月の元旦にも店を開けるからまさに年中無休で、全社員が同時に休むことはできず、盆休みというか夏休みも交替制である。しかも女子社員や一般社員(つまり…

八.火の国まつり ①

火の国まつりの踊り子が下通りを練り歩いている。今日はおてもやん総踊りの日である。 ♪おてもやん あんたこの頃 嫁入りしたではないかいな 嫁入りしたこたぁ したばってん 御亭どんの ぐじゃっぺだるけん まあだ盃あ せんだった 熊本っ子が西日本一と自負し…

七.足の細い女 ⑨

「おいおい、目刺しが欲しいならママに言えよ。ママ、目刺し好きがもう一人いたよ」 ママはグループ客に生ビールを運んでいたが、こちらを見て笑顔で軽くうなづいた。 「部長、目刺しより重大な問題が」 「おい、マーケティング部のことは聞かないよ。こちらも…

七.足の細い女 ⑧

金曜の夜、下通りから横丁に入り二回曲がったところにあるスナックに入った。 「いらっしゃい。めずらしかとね」 この店に来たのは四度目か五度目であるが、真弓のおばさんの店とは違って小さな路地裏にある古びた店である。この店が満員になるのをまだ見たこ…

七.足の細い女 ⑦

外注の件は部内の幹部ミーテイングで話したがすでに全員、石川が叱られたことを知っているようだった。早瀬が考え方を説明した後、部として提案しょうということになった。 早瀬が幹部の前でフォローしたこともあり石川は元気を取り戻し、 「さっそく、テレマ…

七.足の細い女 ⑥

「次長、三割の電話・ファックス注文にしてはオペレーターが多いね」 「はい、実はこれでも少ないのではとお客様からクレームが来たりします。今年の三月ごろですがJADMA(ジャドマ)つまり日本通信販売協会から電話がありまして、お客様がウチに電話して…

七.足の細い女 ⑤

通販会社の受注手段の中心は何と言っても郵便である。英語で通販のことをダイレクトマーケティングとかメールオーダーというが、かつて世界一の小売業だったシアーズが初めてカタログ通販を始めたときはメールオーダーである。つまり郵便による注文形式がす…

七.足の細い女 ③

当分は「体面」を考えて、つまり人目を考えて車で通勤することにした。その二日目の朝、まだ通勤所要時間がわからないので早めに出社すると石川次長がもう出てきていた。 「おはようございます。昨日は大変申し訳ございませんでした。どうしても用事があって、…

七.足の細い女 ③

「早瀬部長、ここでは毎朝八時五〇分より部内朝礼をしています。一〇時からは部内幹部ミーテイングもありますが、これは継続でよろしいでしょうか」斉藤が立ちあがって声をかけてきた。(真弓とは違った魅力のある女性だな、イカンイカン、変なことを考えては…

七.足の細い女 ②

顧客対応部には三つの課がある。受注課と対応課と入金処理課である。 受注課は顧客からの電話等の受注処理、対応課は顧客からの問い合わせとクレーム処理、そして顧客からの入金・債権管理を担当する入金処理課である。それぞれに課長がいる。ほかに部長のス…

七.足の細い女 ①

物流本部長の柴田副社長は豪放磊落な野武士である。しかし単に野武士であればここまで出世はしなかったろう。実はその頭脳は明晰でかつ神経は細やかなところがある、といううわさである。人の心をつかむのがうまいとの評判もあった。しかしそれにしては、な…

六.左遷 ⑦

翌日の熊日新聞に早瀬の異動が掲載された。部長以上の新任や異動は掲載されるのが常である。妻の栄子には単に昇進し物流本部勤務とだけ言った。投書のことは黙っていたし、真弓とのことは気づかれていないようだった。ついでにこれからは車通勤になるな、と…

六.左遷 ⑥

引出しをあけて中のものを整理し始めた。(わずか一年あまりでよくこれだけ書類がたまるものだ。そうだ引継ぎ分を部長宛てと竹中課長宛てとに分けなければ)机の上を片付けて広くし、左端を個人用もしくは顧客対応部に持っていくもの、中央が竹中課長引継ぎ…

六.左遷 ⑤

その夜は一人で下通りをぶらつき、例の焼き鳥屋に入った。カウンターでさびしい気持ちをかみしめた。店主は早瀬の気配を察知したようで、挨拶だけして注文をきくと離れて行った。 ビールのジョッキを傾けながら考えて見ると、自業自得ではないかという気がし…

六.左遷 ④

打ち上げ会から一週間ほどたった水曜の午後のことである。 「次長、ちょっと」 また何事かと思ってメタボの後に従って応接室に入った。 「次長、昇進・異動ですよ」木下部長はわざと深刻そうな顔をしているが、内心笑っているような感じである。 「え、誰がです…

六.左遷 ③

翌朝、すこし気だるい感じでデスクに座っていると、 「次長、おはようございます」 真弓がいつも通りの明るい声で挨拶してきた。女は魔物だな。しかしおれも悪魔か! 昨夜はとうとうホテルに行ってしまった。 妻以外の女と寝たのは結婚以来始めてであった。し…

6.左遷 ②

「次長~」 声を耳にした途端、ドキンとした。瞬間、何かうれしさもこみ上げてきた。ただ顔には出さず、仕方なく立ち止まった振りをした。そこには顔を少し赤くした真弓が頬を膨らませて立っていた。 「やー、今晩は」 「今晩はじゃないですよ。どこへ行っていら…

六.左遷 ①

「次長、どこへ行かれているのですか」 「あ、堀君。君も帰るの? 僕も帰るところだ」 いつまでも管理職がいるのも気が抜けないだろうと思って、カラオケからそっと抜け出しほっとしていると、後ろから堀が声をかけてきたのだ。 「何言ってんですか。冷たい言い方…