七.足の細い女 ⑥

「次長、三割の電話・ファックス注文にしてはオペレーターが多いね」

「はい、実はこれでも少ないのではとお客様からクレームが来たりします。今年の三月ごろですがJADMA(ジャドマ)つまり日本通信販売協会から電話がありまして、お客様がウチに電話しても通じないのでJADMAにかけてきて『サフィールに電話しているが全く通じない。あの会社は本当にあるのか。あったとしても電話が一本しかないのではないか』といわれたそうです」

「三月は受注が多かったからね」

「ええ、今年は寒さが長引いて春物の動きが悪かったんですが、三月に入ってから春物の受注が増えまして電話はパンク状態でした」

「そのときですか」

「ただ、いまの時期は逆にオペレーターが余っている状態でして、出荷部門や商品管理部門への応援、さらには有給休暇をとらしたりして、遊ばさないような人員配置をしているんですが」

「しかし極端だな。ピーク時期には全く足らなくて閑散期には大幅に余ってしまう」

「まさにそのとおりでして」

「人員増は無理だな、それでは。ピーク時期には外注することを考えているの」

「外部のテレマーケティング会社に委託する案もあるのですが、多分、社長がそういうことは嫌うでしょうし、つまり顧客情報を外部の会社に取られるというので。それに外注はコストが高いようでして」

「で、社長に提案はしたんですか」

「いえ、そう思ってしていませんが」

「それでは社長がそう思うと推定して、何も提案せずに人員増だ、クレームだと言っているだけですか」

「ええ、申し上げにくいんですが前の部長が出すのはやめとけとおっしゃったもんで」

「ここの部署は顧客対応部でしょう。お客様のことをまず考えて社内に働きかけることが優先じゃないですか。社長の思惑を考えるより、われわれとしてはまずお客様の立場に立って社内に改善のための提案をするということが責任事項ですよ。社長が総合的な判断でどう結論されるかは別のことです」早瀬は思わず大きな声を出してしまった。窓際の部長席の横で阿蘇を見ながら小さな声で話していたのだが、いつのまにか腹が立って大きな声になったようだ。室内が静かになった気がしたので振りかえって見ると、近くのオペレーターだけでなく遠くの席にすわっている者もヘッドフォンを外しながらこちらを見ていた。

「すみません」石川は消え入るばかりになって頭を下げた。秘書の斉藤はうつむいてなぜか顔を赤くしている。

(まずかったかな。しかし斉藤がなぜあんなに赤くなっているのか)

「ま、この件はあとで、そうだなミーティングで課長連中の意見も聞きながら検討しょう」

早瀬は石川にちょっときつく言いすぎたようだった。彼の責任とばかりはいえない。前任者の指示があったのだから。斉藤はそのことを知っていて俺を責めるような目をしたのであろう。

(しかしやはりあの二人何かがあるな)