七.足の細い女 ⑤

 通販会社の受注手段の中心は何と言っても郵便である。英語で通販のことをダイレクトマーケティングとかメールオーダーというが、かつて世界一の小売業だったシアーズが初めてカタログ通販を始めたときはメールオーダーである。つまり郵便による注文形式がすべてであった。

 サフィールでも、もともとハガキによる注文がスタートである。

 通販ビジネスをはじめた頃はカタログに注文用のハガキを綴じこんでいた。表面にはサフィールの住所が印刷されており、裏面に注文を書く欄を設けていた。ハガキを点線から切り取ってポストに入れればすむのでお客にとっても便利であった。

 会社側にしても封書に比べて切手代が安く済み、受信人払いにすると利用枚数だけの料金となるのでその点でも安くついた。その上、封書と違って「封を切る・開けて中の注文書を取り出す・裏表と上下を揃える」といった開封作業の行程が無くて済むので、効率がアップできた。しかもハガキで受注すれば一定時間ごとにまとめて受注処理作業、つまりバッチ処理をすればいいので人員手配上も、その後の作業行程上も都合が良かった。

 ところがハガキ注文には大きく二つのデメリットがあった。一つは、ハガキのサイズからくる制約であり、一枚のハガキに書きこめる注文商品名を書く欄が限られることである。その上、お客さんの情報(お客様番号・お名前・住所・電話番号など)やお届け先が異なるときの住所スペースも必要であり、また書きこみ易いように注文欄をある程度広くしなければならず、結局、注文欄は最大一〇行から一六行ぐらいまでしか取れなかった。

 最初の頃は取扱商品の種類も少なく、ハガキの注文欄も五行程度で十分であったが、そのうち取扱商品の範囲が広がり、衣料品だけでもベビー・子供服から紳士物までになると注文商品数が増えてきて一枚のハガキには収まりきらなくなった。これではせっかくの受注機会を失うことになる。顧客からも「書ききれない」という要望やクレームも増えてきた。

 また、もう一つのデメリットは、当時カタログは年二回発行のため二シーズン分の商品を掲載している。ところが綴じ込みハガキを最初のシーズンに使ってしまうと次のシーズンでの注文ができないということになる。顧客からハガキを二枚綴じこむとか、もっと電話注文できるようにしてほしいという意見が届いた。

 織田はこれらの問題に対して手を打った。ハガキ注文をやめて注文商品欄が二〇行ある注文用紙をカタログに二枚刷りこんだのである。そのページを点線に従って切り取っていき、番号順に折って糊付けすると封筒となる。

 その後、これも顧客から手間がかかるというクレームがつき、最終的にはカタログを送付するときに宛名印刷済みの郵便料金受信人払いの封筒と注文書を同封するようにした。さらに注文された商品を送るときに、次回の注文書と封筒を同送することも行った。これらの手を打ったおかげで、それ以降、年間の受注額が飛躍的に伸びたのである。

 電話注文の増加に対しては、年々少しずつ回線を増やしオペレーターを増やしてきたようだ。これは一件の受注に要する経費は、封書に比べて電話受注は人件費がかかる分、数倍以上のコストアップになったためである。

 また、サフィールの通信販売の性格上、カタログが発行され顧客に届けられたあと数ヶ月は受注が伸びるが、その後は注文件数が減少していき、次のカタログが出る前の頃はかなりの受注減となる。だからオペレーターをたくさん雇っても、閑散期には多数のオペレーターが暇で遊んでしまうという状態になる。こういった経費の観点から、オペレーターの増員にはかなりの慎重さを要した。このようなさまざまな経緯があって、サフィールでは現在注文の四割が封書・ハガキ、三割が電話とファックス、ネット受注は二割未満である。