2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

十一.クレームの秋 ④

早瀬は春夏カタログを取り出してページをめくった。該当商品は手ごろな値段でかわいい感じのする上下であった。 「クレームの商品はこれだけ?」 「はい。マーケティング部に問い合わせると、この子供服はヒット商品だったとのことです」 「なるほどな。で、その…

十一.クレームの秋 ③

二日後に帰社して報告を受けた。 「高松には飛行機の直行便が前には有ったんですがいまは無くて、新幹線で行きましたが、半日がかりでした。それで家を探しましたら高松市のはずれの古いアパートで、その二階で、部屋には誰もいなくて扉の郵便受けには宅配の…

十一.クレームの秋 ②

社長室に役員が集まって討議した内容は、本部長から聞いた。 社長が箱を開けて中を見て激怒されたようだ。ミキサー本体に蓋が無くしかも刃には防護カバーもされていないとはどういうことか、ということを厳しく追求された。 「これでは誰でも指を切るだろう。…

十一.クレームの秋 ①

QCサークルの進捗状況は初めてにしては順調で、各グループとも課題解決に向けてデータ―を集め討議し、さらに補足的なデータを集めていた。中には全く行き詰まっているグループもあったので、早瀬が入りこんでリーダーを助けることもしている。 本部長に進…

十.ベルト・コンベヤー ⑧

デスクに座ると黒田が手に書類を持って来た。 「部長、すみません。債権回収そのものは順調で喜んでるんですが、一人のお客様からクレームが来まして」昼休みの時間中も交代でオペレーターは勤務しているので、黒田は声を潜めてさも辛そうにぼそぼそとつぶやく…

十.ベルト・コンベヤー ⑦

昼食はできるだけいろいろな社員と同席して食べるようにしているが、たまたま今日は黒田課長と向かい合って座った。「海苔弁当」を食べ終わってお茶を飲みながら 「それはそうと、黒田課長、バイパス沿いの角にしゃれた喫茶店があったように思うんだけど、この…

十.ベルト・コンベヤー ⑥

機械も間違うし人間も。たとえ忍耐力と集中力のあるパートさんでも一日中集中力を続けることはできないのは当然である。コンベアが流れ出すとトイレにも行けないらしい。もちろんどうしてもというときには近くの男性社員に声をかけると代わってくれるとのこ…

十.ベルト・コンベヤー ⑤

箱の次にはピッキングとなる。三階の衣料品ラインに降りてきた。 「ご存知のように注文商品を商品棚から取り出して注文者の箱に入れる作業をピッキングといいます。五階の箱部門からベルト・コンベヤーが各階の内部を縦横に走り回っています。見た目は乱雑な…

十.ベルト・コンベヤー ④

翌日は商品の出荷状況を見学した。小林係長はがっしりとした体つきのいかつい顔を今日もニコニコさせて同行してくれた。 「五階に上がりましょうか」人荷用エレベータに乗った。サフィールの物流センターの配送部門は五階建ての建物であり、一番上の階に箱部門…

十.ベルト・コンベヤー ③

地方にしては時間給が高いのでパート希望者にとってサフィールは人気がある会社であり、その中でも開封作業は座ってできる軽作業ということで希望者は多い。しかも最も退職者の少ないのがこの職場であった。少ないとはいってもパートタイマーの主婦は主人の…

十.ベルト・コンベヤー ②

バイパス沿いにある物流本部は県下でもトップクラスの、そして通販業界でも有名なほどの広大な施設であった。早瀬はせっかく業界随一の物流部門の近くにいるのに物流、とくに通販物流についてはほとんど知らないのはもったいないと思った。そこで業務関連知…

十.ベルト・コンベヤー ①

10月下旬に入ると秋冬カタログの受注が少し落ち着いてきた。 秋晴れの中で阿蘇がはっきりと見え、中岳の白煙がたなびくのが見える。今年は暖かいので紅葉は遅れるという予報を耳にしたが、阿蘇の紅葉は見事であり楽しみだ。 「QCサークルとは、一口で言うと…

九.コンクール ⑨

早瀬はこちらに来てからは車通勤でもあり、退社後下通りをぶらつくことも少なくなっていた。それに九月からは電話応対時間が夜九時までになり早瀬と石川がほぼ交代で最後まで勤務している。だから飲みに行く機会はかなり減ってきていた。 秘書がいるというの…

九.コンクール ⑧

この応対者もしくは担当者になって応答するのであるが、その応答部分は自由に考えていい。ただこのシナリオの主人公になりきるためにはその場面を想定して、まさに本人になりきる必要があった。早い話が役者になるのだ。早瀬はそのシナリオの会社を現実の会…

九.コンクール ⑦

電話コンクールについては主催者に内容を確認し、熊本地区担当者に来社してもらい、受注課の主任達を集めて説明会を開いてもらった。同時に昨年の大会の状況を詳しく聞いた。主任連中からはほとんど質問がなかったので、早瀬が中心となって細かなことを聞い…

九.コンクール ⑥

「つまり、ウチのカタログ掲載商品は社長の目にかなう商品、その社長は地方向け商品を見て目を養っていると・・・・」 「だからウチのアウターウエア商品は同じような地方ではよく売れるが、都会ではあまり売れないとバイヤーが言ってたのを聞いたことがあるが…

九.コンクール ⑤

「まだあるのかい、何だ」 「社長が商品部に回って来たときにマネキンにかかっていた秋冬カタログのプルオーバーをご覧になって『これはいいだろう、売れるぞ』といわれたようなんですがね」 「担当者は反論せずに黙っていたので事なきを得たようなんですが、これ…

九.コンクール ④

「まだあるのか」 「役員の入れ替えがこの前あったでしょう」 「担当部門が入れ替わったってやつだろう」 「あれも裏話がありまして」 「え~、裏があるのか」 「総務担当役員の加古さんが人事本部のことで上申書を出したようですよ」 「上申書? 態(てい)のいい投書じ…

九.コンクール ③

一方、オペレーターにはモラールを上げて目標を持たせる意味で「全日本電話応対コンクール」への参加を、受注課の課長や係長、主任を集めて諮った。このコンクールの存在はマンモス時代に新聞記事で読んだことがあり、今でも開催されているか不安であったが、…

九.コンクール ②

「創業のころ、クレームをよく読んで商品を改善し新しい商品づくりをしたものだが、それがいまのサフィールにつながっているんだ。お客様の声を大事にし、一人ひとりのご意見に基づく商品やサービスの改善をしていかないとウチの会社はすぐにだめになるぞ」 「…

九.コンクール ①

久しぶりの二日酔いの頭でボーっとオペレーター達を眺めていた。 昨夜は帰宅してから風呂上りにビールを飲んで、妻の愚痴を聞きながらテレビを見ているうちに、なぜかもっと飲みたくなってお気に入りのフォウア ローゼズの水割りを作った。サントリーの説明…

八.火の国まつり ⑨

「すごいって、超ミニたい」 「そんなんじゃないよ。その子はね、とにかく『すごーい、すごーい』が口癖でね。何かあると『すごーい』、だれそれが何かしたというと『すごーい』でね。まったくのボキャ貧だよ」 「面白か。しかしそういえば最近のおなごはすごい…

八.火の国まつり ⑧

「あるオペレーターに用事があって、その子の席まで行くとお客さんと話中でね。そこでいつもしているようにメモを置いてきたんだよ、『電話が終わったら早瀬まで』と書いてね」 「へ¦」 「しばらくしてからおれの席の前あたりをその子がうろうろしているので『お…

八.火の国まつり ⑦

「石川次長、この月報もそろそろ内容を充実させたいと思うんですが」部内ミーテイングで今月の月次報告をまとめる話が出たのを幸い、早瀬は気になっていることを持ち出した。 「はい、えーと、どのようにすればいいですか」 「この月報は本部長経由で社長に、ウチ…