十.ベルト・コンベヤー ④

 翌日は商品の出荷状況を見学した。小林係長はがっしりとした体つきのいかつい顔を今日もニコニコさせて同行してくれた。

「五階に上がりましょうか」人荷用エレベータに乗った。サフィールの物流センターの配送部門は五階建ての建物であり、一番上の階に箱部門がある。

「出荷の出発点は箱、つまりダンボール箱なんですが、部長、通販で商品を買うとその中身に応じた箱のサイズになっているのにお気づきですか」

「そうですね、そういえばスーパーで少量買ったのに大きなポリ袋をもらうことがあったけれど、通販商品を送ってきたときは大体ぴったりサイズですね」

「そうなんです。そのスーパーの大きなポリ袋はまだコスト的に違いは大きくは無いと思いますが、通販商品の場合は宅配送料に直結しますからその差は一〇〇円単位といわれるぐらい大きなコスト差になるんです」

 通販商品を受け取ると、その中身の容量に応じた箱のサイズとなっていることにどれだけのお客さんが気づいているだろうかと早瀬は思った。通販会社では物流コスト削減のためにできるだけ無駄の無い箱が利用されているのである。宅配料金は箱のサイズで変わるので、できるだけ小さなサイズにすることが望ましい。さらに中身に対して箱が大きすぎると輸送中に商品が箱の中で踊って痛むことになるので、それを防ぐために詰め物がたくさん必要となる。詰め物もタダではない。といってあまりに小さいとギューギュー詰めになって商品によっては傷むし、衣料品であればしわができてしまう。

「最初にスキャナーが顧客ごとのピッキングリストつまり注文商品リストのバーコードを読み取りまして、その注文商品量に応じた箱がこの横の箱ルームから出てきて自動的に組み立てられます。そして宅配伝票が貼られ、ピッキングリストは人手で箱の上蓋に取り付けられるんです」

 なぜ注文量に応じた箱が出てくるのか?

 実はカタログ掲載商品はすべてそのサイズ(立て・横・厚さ)と重さが登録されているという。箱入りや袋入りの商品はその状態で測られる。それがコンピューターにすべて登録されているので注文客ごとの必要な箱のサイズはコンピューターが自動的に計算している。五階の一番上に箱部門があるのはそこがすべてのスタート地点というわけだ。

「上から下に流すのが引力の法則に従いましてエネルギーが少なくてすみますからね」小林はさも得意そうな顔である。

「四階から下には今のシーズンのカタログにあわせて、箱に入れる重量物から配置されています。スーパーで買い物しレジを通過したあと、袋詰めするときに重いものを下に入れるのと同じです。もちろんフロアごと、またブロックごとに日用雑貨・衣料品・食料品・小物家具・家電製品などに区分されています。同じような商品は同じところにおくというのもスーパーの売り場に似ているでしょう。もちろん食料品とファッション商品とを一緒に箱に入れないとか、大型家電製品を上層階からベルト・コンベヤーから流すというようなことはしていませんし、大型商品はメーカー直送するようにしています」

 たとえば大阪のメーカーの工場から熊本に運んで、それを大阪の顧客にお届けするというような馬鹿なことはしない仕組みである。早瀬にも十分理解できた。