五.社内販売 ④

「滝川君、こんなに二年前の商品が残っていたのか。商品ごとの発注数量と受注数を言ってみろ、それに担当バイヤーは誰か」

 織田は商品本部長や商品部長を前に並べて怒鳴っていた。年が明けてもう二月である。予想どおりの厳冬で一月にカタログを配り終えたというのに春物商品は一向に動く気配が無かった。織田は不機嫌であった。まさに通販業者の悪夢が現実化したというような気さえしていた。

 下問に対して、主としてレディス部門の部長がデータを見ながらぼそぼそと答えた。

「受注予測は前年の類似品の売れ数を見て、さらに東京でのトレンドや、契約デザイナーの意見を参考にして行ったのですが・・・」

「何だ、まったくいいかげんな受注予測で発注しているじゃないか。少し位なら予測誤りということもあるが、そんなに大きく外れていたのでは、そのバイヤーは能力がないんじゃないか。しかも二年たって、いままで何ら手を打っていないとはどういうことか」

「はい、このブラウスについては一部カラーが売れ残ったわけでして・・・」

「何を言っているのか。だいたいファッション衣料が前年の類似品と同じ動きをするわけが無いじゃないか。そんなことを言っているからこんな馬鹿な発注をするんだ」

滝川部長はしきりに汗をぬぐっている。

「木下君、そうだろう」部長に顔が向けられた。

 さすがの木下も商品本部長の前では社長に同調して批判的なことも言えず、黙っていた。

「早瀬君、いまとなってはこれらの商品は原価を割らないでは売れそうに無いか」 今度はこちらに向かってきた。

「カラーとサイズが偏っていますし、チラシを計画どおり一〇〇万枚同送したとしてもすべてを売り切るというのは困難では無いかと思います」

「やむを得んな。問題のあるアイテムだけは原価割れを許そう。しかしチラシ全体としては粗利を確保するようにしなさい」

  つまり原価を割った分、他の商品でカバーしてチラシ掲載の全商品での利益を取ることを指示しているのである。

 

「竹中課長、いわゆる粗利ミックスということだな」席に戻って企画課長に先ほどの社長指示を伝えた。

「粗利ミックスって何ですか」

「そうか、課長はメーカー出身だったな。これはスーパーでよく使われる用語なんだけどね」と早瀬は手元のメモ用紙に数字を書いて説明した。

「なるほどわかりました。社長のいわれるのは一部の商品は原価を割って、つまり粗利益率をマイナスにしてもいいが、その分ほかの商品で利益を取って、全体としてはマイナスは許さないということなんですね」

「うん、社長はやはり厳しいね。しかし考えて見るとチラシ製作費用や人件費を考えると粗利益率が一〇%程度では会社としてはマイナスだから、試算どおり何とか一五%確保できるようにしなければな」

「そうですね。その線でうちもチェックします」

 竹中課長が椅子を下げて自席に向かったあと、生駒がヒールを響かせて向かってきた。

 早瀬は思わず顔を上げると怒ったような目が見おろしていた。

「次長、データできました」

 生駒はどさっとおくと、それ以上何も言わずに戻っていった。早瀬は一瞬何が起こったのかと思った。