2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

十二.フィナーレ ⑧

それから1ヵ月ほど経過したころ、部内ミーティングをしていると、秘書の斉藤が「本部長からお電話がありまして、至急お越しくださいとのことです」とメモを手渡してきた。泰然自若、大物の風格がある本部長から「至急」とはただ事ではない。あとのテーマは次長に…

十二.フィナーレ ⑦

二日後、堀から携帯に電話が入った。だいたい携帯で電話をかけてくるのは妻か真弓ぐらいなものなので、端末の表示に堀の名前が出ているのを見て一瞬、驚いた。 「部長、いまいいですか」 「なんだ君か、携帯に電話するとはどうしたんだ。ちょっと待って、廊下に…

十二.フィナーレ ⑥

「部長、外国人のようなんですが、代わっていただけますか」オペレーターの一人が遠慮しながら、しかし部長だから英語ぐらいしゃべれるだろうと当然のような顔で言ってきた。 「英語か」英語なら少しはわかる自信はあった。しかし電話の英語は表情が見えなくて難…

十二.フィナーレ ⑤

この部に着任して九ヶ月。本社から離れていると堀からの情報が最も頼りになっていた。その堀から相変わらず投書が多いということを聞かされていたが、多分その中には早瀬に対する投書も多いのに違いなかった。 いろいろな新しいことを実施し、それなりに成果…

十二.フィナーレ ④

三月に入って春物商戦が本格化し、部内は活気が出てきていた。夜間受注や外部委託なども順調で、いまのところクレーム類も減少していた。久しぶりに下通りで堀と待ち合わせて焼き鳥屋に入った。 堀からは本社の情報を得たり、社長の動向を聞いたり、堀との飲…

十二.フィナーレ ③

「部長、この間の電話コンクールの全国大会は惜しかったですね」大広間の食堂である。弁当を横で食べていた債権課の黒田課長が早瀬にもぐもぐといいながら話しかけてきた。 「まったく。同行した次長の話では上出来で、初出場で初優勝だとてっきり思ってたと言…

十二.フィナーレ ②

一月中旬に全国電話応対コンクール地区予選があり、熊本では見事に清水好江が二位、金山美佐が三位に入った。初出場で二位と三位に入り、このことは熊日新聞で大きく取り上げられた。一位は毎年上位に入っている鶴屋デパートであった。 本部長は大喜びであっ…

十二.フィナーレ ①

「部長、本社の七不思議が一つ増えましたよ」堀からの電話であった。 「なんだ」 「例のタペストリー盗難事件ご存知でしょう?」 「あれは不思議だな。なんと三千万円もするものらしいよ」 「実はよく調べると、絵も無くなっていたらしいですよ」 「エ~、本当かい」 「一…

十一.クレームの秋 ⑦

「真弓っちゃん、これは穏やかならざる発言たい」 「生駒さん、問題発言だな」竹中も同調した。早瀬は一瞬ドキッとする思いがした。 「いいえ、なんでもありません。そう思っただけです。もっと飲みましょう」 「あやしいばってん、このところ仕事でもミスしたり、…

十一.クレームの秋 ⑥

コンテスト練習中のモニターを聞いているときに堀から電話があった。 「お忙しいところ申し訳ございません。マーケティング部の堀でございますが」 「何だ、改まって。さてはオペレーターになりたくて言葉使いを練習しているのか」 「冗談きついですよ。コンテス…

十一.クレームの秋 ⑤

「しかし、そうしてますで終わるのももったいないね。次長、さっきのクレーム客の再注文について何かデータ的に出ないものだろうか」 「そうですね。クレーム件数は正確な数字が出ていますが、そのうち何パーセントのお客様が納得されてリピートされているかは…