五.社内販売 ⑤
(何か仕事で失敗でもしたのか、俺が何かまずいことでも言ったのか)
頭の中をスキャンしたが、思いつく理由は見当たらなかった。しかし、
(最近ほとんど声をかけていないからかな。投書されていたので仕方ないじゃないか)
とも思いながらぼんやりと前方を眺めていた。その視野の中で堀が立ち上がってこちらにくる様子が見えた。早瀬は目をそらさず来るのを眺めていた。
「次長、在庫の件ですが、以前からの問題で端数在庫をどうするかが利益確保上重要な課題と思うのですが」
「端数在庫か」耳にした課長も振り向いて立ち上がってそばにきた。
「端数在庫というのは、チラシに載せるには少なすぎるという在庫だろう」
「ええ、うちの場合チラシは最低でも数十万枚単位で印刷して同送しますから、少々の端数ではすぐに売りきれてしまい、品切れ続発で逆にクレーム殺到ということになります」
「そうだな。だからチラシに掲載するというアイテムは、印刷部数にもよるが過去の受注状況からいって最低一〇デカつまり一〇〇枚ぐらいはないといかんということだな」
「ですから今回話題になっているチラシ掲載可能商品はある程度の在庫がある分に限られるわけです」
「問題は、例えば一〇デカも無いような本当の端数在庫というわけです」竹中課長が引き継いで言った。
生駒が立ち上がるのが見えた。
その視野の中に生駒の前に座っている宇川が見えた。宇川は生駒より年下だが、かなりのライバル意識を持っているという話を聞いたことがある。生駒が行くところを視線で追っている光景を何度も見たことがある。
「そういった端数在庫は海外で処分しているというじゃないか」
「はい、国内ではイメージに関わりますから絶対に処分できないということで、これは社長指示で始まったのですが、商社を通じてなんと一グラム一円で処分しているんです」
「えー、そうかい。海外処分といってもソコソコの価格で売っていると思っていたんだけど」
「商社に一グラム一円で、商社は現地の問屋みたいなところに運賃等の経費やマージンをオンして売り払っているようです。その先ではもちろん、消費者に一着いくらで売っているようですが」
「なるほど。しかしグラム一円か。もっと高く売れないものかな」
「東南アジアの人達の生活水準を考えると、少しでも高いと売れないようです」
「課長、これはたいへんだな」
「ええ、私も最初聞いたときにはびっくりしましたが」
「他に方法はないの」
「従業員に売るという手があるんですが」堀が答えた。
「従業員か、よくメーカーなどでやっているな。うちの従業員二千五百人がみんな一人一万円買ったとしたら二千五百万円か」
「しかし、端数ばかりでサイズの片寄りや、売れそうに無い色が残っていますから、全員が一万円というのは不可能でしょう」竹中が商品台帳を繰りながら思案げに答えた。
「一人五千円買ったとして一千万円余りか、たいしたことはないが、グラム一円よりはかなりいいな」
「そうですね。一つうちの課で具体的に検討してみましょうか」竹中が大きな声で言った。
「そうだな、検討してみてくれんか。内容によっては部長や本部長にも報告しておこう」
「はい、早急に試算してみます」
「それからもう一つ、チラシを何十万枚も刷って一律に同送するというのは見直しが必要だな」
「どういうことですか」堀が睨み付ける様にして言った。
「まあ、そんな怖い顔するなよ」
「次長、チラシを刷って商品に同送して在庫処分するというのは、もともと堀係長の案でしたから」
「そうか。それはいいところに目をつけたな。しかし僕が言わんとしているのはけちをつける意味じゃないよ」
「どういう意味ですか」堀は口を尖らせた。