七.足の細い女 ②

 顧客対応部には三つの課がある。受注課と対応課と入金処理課である。

 受注課は顧客からの電話等の受注処理、対応課は顧客からの問い合わせとクレーム処理、そして顧客からの入金・債権管理を担当する入金処理課である。それぞれに課長がいる。ほかに部長のスタッフとして次長が一名いるが、次長は部長不在時の代行業務もしている。

 通信販売会社の受注方法は、基本的に電話と郵便であり、最近はインターネットでの受注も増加している。電話は、いわゆる電話とファックスに分けられる。もちろん夜間・休日用の留守番電話も含まれる。

 アメリカの通販会社は八〇〇番というフリーダイアル使用が普通であるがサフィールではフリーダイアルはまだ採用していない。オペレーターの出る受注時間は朝九時から夕方六時までで、それ以外は留守番電話で受けている。ネット受注はコンピューターでの自動受付をしており、経費効率的には非常に良い。

 電話回線は全体で二〇〇回線確保しているが、受注用にそのうち一三〇回線をあて、受注専用オペレーターは一五〇人。

問い合わせ・クレーム担当部門は総勢七〇人。うち、男性は一〇人。男性はオペレーター業務をしない。かれらは女性オペレーターが受けた段階で解決できなかったクレームや問い合わせを専門に処理する部隊である。

 早瀬がマンモスの店舗に勤務していたころ、クレームが発生するとその内容によって店長または次長・課長が菓子折り提げて顧客の家へお詫びに行ったものであるが、通信販売会社のクレーム処理は、まさに通信で解決するというのに感心した。しかも客宅へ訪問してお詫びするのは年に一件あるかないかという。殆ど全てのクレームは電話と手紙で済ませているらしい。もちろん内容によってはお詫びの品、それも取扱商品の中からバスタオルや石鹸などを丁重な文面の手紙に添えて送ることもあるようだ。

 そういった対応で殆ど全てのクレームは「解決している」とのことだ。月間一〇〇万件以上の受注件数だからクレーム件数も膨大だろうと思うが、それで済んでいるのは奇跡といえよう。しかしマンモスでの経験からお客さんが本当にそれで納得して解決しているのか、通販会社が遠くにあるのであきらめているのかという疑問を早瀬は持った。

 入金・債権管理部門は経理部にあるのが正しいのではないかと荒木部長に聞くと、

「私も初めにここに来たときはそう思いましたが、受注・問い合わせ業務と入金関係の業務は表裏一体なんですよ。グレー客つまり用心すべきお客様の注文に際しては先払いをお願いする場合もありますし、返品・交換の電話については金額訂正の業務がついて回りますので、同じ部屋にいることの方がスムーズに連携できるわけです」

「なるほど、でもパソコンでつながっているんですから、そういったことは画面で確認できるんじゃないですか」

「それもそうですが、なんと言いますか端末の画面だけでの確認よりも、やはり近くにいて顔を見ての確認の方がコミュニケーションがスムーズな様ですね。日本的ですがね」

 荒木部長は早瀬に引き継いだ後、私物をつめた使い込んだ感じのする古ぼけたかばんを提げて本社に向かって出ていった。(さ、いよいよ俺の責任のはじまりか)前方の端末群と二〇〇人を超える女性たちを見ながらハイバックの椅子に座った。昨日までは次長ということで前面に出ることは少なかったが、これからはこの部の責任者である。二百数十人を抱える大部隊である。