十.ベルト・コンベヤー ⑤

 箱の次にはピッキングとなる。三階の衣料品ラインに降りてきた。

「ご存知のように注文商品を商品棚から取り出して注文者の箱に入れる作業をピッキングといいます。五階の箱部門からベルト・コンベヤーが各階の内部を縦横に走り回っています。見た目は乱雑なようですが、このラインをどう取り付けるか、商品とどう組み合わせるかなどはまさに鉄道の時刻表作りのような気がする作業です。これはカタログ発行にあわせて半年ごとに組み替えます」

半年ごとに時刻表改正となるのだ。乱雑な様でも十分計算されていると知り驚いた。ベルト・コンベヤーの両横には商品棚が圧倒的に迫っており、コンベヤの両側には数メートルごとにパートさんが立っている。

 ベルト・コンベヤー上には次々と箱が流れてきており、その箱に取り付けられているピッキングリストをパートさんが見て後ろを振り返らずに手を伸ばして該当商品を取り出して箱に入れる。ここにも開封作業並みのベテランがいるのである。

ピッキングリストを見てから後ろを振り返って、商品棚を見て該当商品を探していたのではコンベアの流れに追いつかないんです。いまはすこし出荷量が落ちてきていますので比較的スムーズですが、繁忙期になるとコンベア上にぎっしりと隙間無く箱が流れており、いま見ている該当の箱から目を離さず、すばやく商品を取り出して入れないとどの箱の商品かわからなくなります。そしてピッキングミスが発生します。この作業も男性には無理でしょうね。開封作業と同じで集中力と忍耐力が必要で、男性ですと長時間は無理です」

「ベルト・コンベヤーが何本も走っているけど、五階から一本走ればいいんじゃないの。上から下まで一本でつなげば」

「いえ、それではかなり非効率となります。お客さんの注文商品内容はすべて違いますから、婦人衣料だけとか紳士衣料だけだったり、場合によっては食料品だけであったり、婦人衣料と小物家電製品の注文であったり注文内容は千差万別です。そこでリストをスキャナーで読み取って三階に置いている商品に必要が無ければ三階はパスして四階から二階に直行するというバイパスのコンベアがあるんです。一階だけに用があるときには五階から一階へ直行ですね。またフロア内でもある部門を通る必要が無ければその部門を通らないようにも組まれています」

「そうか。それでこれだけ多数のベルト・コンベヤーが縦横に流れているんですね。しかしあまりコンベアが多すぎても返って効率が悪くなるんじゃないの」

「そうなんですよ。そこが苦心というところですね。どのルートを経由すると効率的かはコンピューターを利用して計算しています」

 一階に降りると、そこでは最後の商品を入れた後、パンフレット類やピッキングリストそのものを箱に入れ、自動封印機で箱のふたが閉じられテープが張られていた。

 そのあと若い男性社員がベルト・コンベヤーの分岐点で送り先地域ごとに左右振り分け作業をしている。力作業である。これも自動化することが検討されているが、この振り分け作業のスピードは機械よりもまだ若い男性のほうが早いということでまだ未導入とのことだ。

 そして最後に出荷検査となる。ここは早瀬の部署と直接の関係があるので興味を持って見た。

 通販会社の悩みの種、お客様の不信の元はピッキングミスである。いまかいまかと商品の届くのを待ち、わくわくしながら段ボール箱を開けると、注文した商品が入っていなかったり、間違った商品が入っていたり、最悪の場合はまったく別人の商品が入っていたり・・・。実際にあったことだがわくわくしながらあけて見ると中身はカラ。怒り心頭!

ピッキングミスの原因はいろいろあるんです。箱部門での最初に担当者がピッキングリストを貼り間違えたり、ピッキング担当者が違った商品を入れたり、隣の箱に誤って入れたり・・・・。顧客対応部の皆さんには大変ご迷惑をおかけしていますが」小林はいかめしい顔を情けなさそうに言った。

「いや、うちというよりお客様に迷惑をかけているんですよ」