十一.クレームの秋 ③

 二日後に帰社して報告を受けた。

「高松には飛行機の直行便が前には有ったんですがいまは無くて、新幹線で行きましたが、半日がかりでした。それで家を探しましたら高松市のはずれの古いアパートで、その二階で、部屋には誰もいなくて扉の郵便受けには宅配の不在票がいくつも挟まれていました。見ると他社の通販商品のようで日付を見ると前日と当日の分でした。ということは今日あたり帰ってくるかもと思いまして。両隣の部屋もノックしてみたんですが不在の様子で、1階の部屋の人をちょうど見つけて聞いたんですが、二階の人のことはわからないということでした。結局交代で部屋の入口を見張りました。もちろん気づかれないようにしましたが」

「大変だったな。で、結局その客は帰ってきたのか」

「夜の十時ごろに帰ってきたので、警備の彼と踏み込みました。中年の女性で、最初はドアを開けてくれなかったのですが、近所の人に聞こえますよというとドアを開けてくれまして玄関で話をしたんですが、室内はカップ麺やペットボトルや何やかやの乱雑状態で、奥にも部屋があるので見えたのですが通販商品らしき段ボール箱が山積み状態でした。女と話をしたんですが、まったくノラリクラリで支払いの意思はまったく無い様子でした。警備の彼もこれは警察沙汰にするしかないかという意見で、とりあえずは社長の決裁を得て告訴ということを考えて帰ってきたのですが」

「そうか、たいへんだったな。その方向で報告書を作ってくれんか。万趣会やニッサンなどの他の大手通販会社に問いあわせたら、各社とも調査したら同じ客だったとかでびっくりして、感謝されたよ」

「そうですか、他社の商品もたくさんあったようですからね」

「ということでわが社が単独で告訴するか、連名でするかは本部長と相談して社長に決裁してもらうようにするよ」

 

 一方、クレームもこのところ頻発していた。

 秋冬カタログを発行した翌月の、九月ごろのクレームや問い合わせは注文したのに商品がまだ着かないというものが多く、次に多いのは商品は届いたがカラーが違うとか数量が違うといった出荷ミス、そして宅配業者の態度が悪いとか言うのが多い。

 十一月に入ると、商品そのものに対するクレームが増えてくる。つまり使ってみて不具合が出たというものである。九月ごろのクレームはある意味で容易であるが、品質や使用上の不具合についてのクレームはかなり神経を使う。

 出荷件数に対するクレーム率は早瀬が入社する前には最大時に一%を超えたことがあったようだ。一%というと数字上は非常に少ないと見えるかもしれない。現にバイヤーは「わずか一%でしょう」という発言をすることが多い。それに対して早瀬はいつも、

「一%という数字は少ないように見えますが、出荷件数月間百万件で見るとなんと1万件ですよ。どこの小売業が毎月1万件ものクレームを発生させていますか。このような状態を続けていたらいずれうちの会社はお客さんから見放されますよ」

と強く主張するのが常であった。

 その一%も最近は少しずつ減少してきているが、それにしても比率で無く件数で見るとまだまだ大きな数字となっていた。

 季節的なクレームもある。たとえば今春には「こんなクレームがありました」と次長から聞いていた。

「部長、今年の四月にはお客様から同じようなクレームが五件届いたことがあったんですよ」

「同じようなクレームがそんなにとは、聞き捨てなら無いな」

「今年初めてでしたが、詳しく調べたらもっとあったかもしれませんが」

「おいおい、穏やかじゃないな。いったいどんなクレームだ」

「えーと、簡単に申し上げますと子供が同じ服を着ているっていうことで」

「制服だろう」

「イエイエ。そのときのメモが残っているのでちょっと読んでみます。『三月の初めに、いつも利用している御社で今度幼稚園に入る子供の入園式の服を買いました。昨日それを着せて入園式に行きますと、なんと同じ服を来た子がいるわいるわ・・・で恥をかきました。かわいい服だったので気に入って買い、本人も喜んでいましたが、子供があの子も同じ服着ているよと大きな声で言ったので恥をかいてしまいました。おたくで服を買うのも考え物です』ということですが」

「ほかのも同じ内容か」

「同じ地域からではないんですが、ほかの幼稚園でも同じようなことがあったんだと思います」

「ちょっとカタログを見てみようか」