十一.クレームの秋 ②

 社長室に役員が集まって討議した内容は、本部長から聞いた。

 社長が箱を開けて中を見て激怒されたようだ。ミキサー本体に蓋が無くしかも刃には防護カバーもされていないとはどういうことか、ということを厳しく追求された。

「これでは誰でも指を切るだろう。一件だけだったのは本当に幸いだった。メーカーとの商談時になぜこのあたりを気づかないのか。バイヤーはまったく問題意識なしに掲載商品を決めているのか」

 こっぴどく叱られたようである。

 メーカーは在庫商品を持ち帰り、蓋と刃のカバーをしっかりつけた状態にした。しかし当社での取り扱いは当分中止とし、今後のご注文に対しては品切れでお詫びするということになった。すでに商品が届けられているお客さんには改善されたものを送り、古いのは危険ということで業者が引取りを行うこととなった。

「やれやれ、一件落着だな」と次長に話しながら、カタログ掲載商品を安全性の観点から顧客に最も近い当部としてもう一度見直すことを指示した。もちろん早瀬自身もチェックを始めた。

 早瀬は阿蘇の山を眺めながら今回のわれわれの対応に問題は無かったか、他により良い手段は無かったかとつぶやいた。中岳は白煙を上げている。

 

 カッター事件が落ち着いたころ、今度は入金処理化の黒田課長が声をかけてきた。

「部長、おかしいのがありました」

「またドキッとするようなことを言うなよ。おかしいのは君じゃなかったけ」

「いやですよ、部長。私は常にまともですから」

「そういうのがマーケティング本部にも一人いたな」

「堀さんのことですか」

「イエイエ、個人情報はいえません。それで何だ」

「何だはひどいですね。支払の遅れているブラック客のリストをハードコピーにして眺めていましたら見つけました。電話番号は別々ですが、住所、つまり商品の送り先は同じというのが」

「そうか。電話番号が同じなら番号名寄せですぐに支払がないことが判明して、以後のお買い上げは停止となるが、そのあたりを知っている客か」

「はい、そうです。この客は、電話番号はばらばらで違うんですが、ちなみに数件かけてみましたら使われていませんというのばかりでした」

「そういう番号をうまく選んだものだな」

「しかし通販は商品の送り先が必要で、それは自分の家か一定の住所にしないといけませんからね」

「うん、君は偉い。よく気づいたね。いま頃」

「それはほめているんですか、けなしているんですか」

「もちろんほめているんだよ。で、その客の売り掛けはいくらぐらいになる?」

「十四件で二十四万円あまりになります」

「十四件もあるのか、一件当たり一万七千円ぐらいか」

「そうです。初めてのお客様に後払いで商品を送る限度額が二万円ですから、うまく読まれました」

「初めてのご注文で合計金額が二万円超すと、先に代金を支払ってもらうという仕組みだからな、敵も考えたな。で、どうする?」

「はい、通常なら督促状とか内容証明とかになりますが、個々の注文商品に対する入金遅れについては既に出していますから、今回はこの住所に直接行ってみようと思うんですが」

「そうだな、この総額について内容証明を出しても効果は無いだろうし、高飛びされても困るから突然訪問するか。君が行くのか」

「四国の高松ですが、よろしいでしょうか」

「課長については社長承認が必要だから本部長にそのリストを持って説明に行って承認してもらおう。それと、君一人ではだめだから警備員の中に県警出身の猛者がいるらしいので、その人と行くということで了承してもらうようにしよう」

 課長と警備担当者の出張は社長承認が得られて、数日後高松に向かった。