九.コンクール ①

 久しぶりの二日酔いの頭でボーっとオペレーター達を眺めていた。

 昨夜は帰宅してから風呂上りにビールを飲んで、妻の愚痴を聞きながらテレビを見ているうちに、なぜかもっと飲みたくなってお気に入りのフォウア ローゼズの水割りを作った。サントリーの説明書「究極の美味しい水割りの作り方」を見て、バーボンをそのとおりにして作ってみたのである。

ウイスキーの水割りは氷をたっぷりとグラスに入れて、そこにウイスキーを注ぎ、水を足さずに十三回転半かき混ぜ、そしてさらに氷を足し、ミネラルウオーターをウイスキーの二、五倍注ぎ、三回転半かき混ぜます」

 これが旨かった。

 以前は氷を入れ、ウイスキーを入れ、そしてミネラルウオーター(無ければ水道水)をいれてでたらめに数回かき混ぜて飲んでいたのだが、説明書どおり十三回転半とか三回転半を忠実に守ると、魔法にかかったようにおいしくなった。四十度もあるウイスキーを調子に乗って二杯飲んで酔っ払ってしまい、風呂にも入らず寝てしまった。

 今朝は娘に「お父さん、昨夜はいびきがすごくて眠れなかったと」と叱られてしまった。そして頭ががんがんしていた。「家で飲んで二日酔いで・・」といって休むわけにもいかず、二日酔いの薬を飲んでなんとか出社した。

 

 九月は上期のピーク月である。八月に出した秋冬カタログが顧客に届き、盆を過ぎて秋風を感じるころになって、秋物の注文がどっとくるのがこの九月だ。オペレーター達は全員が端末の画面を見ながらヘッドフォンマイクで応対している。いまの部内は活気がある。

 その上、今月は電話応答時間延長や、夜間勤務のアルバイト教育、外注先への指導など部内の管理職はてんてこ舞いの状態であった。

 また、受注が増えるのに比例して問い合わせが増え、そしてそのあと少しタイムラグを置いてクレームが増えてきた。

 クレームや顧客からの要望については対応課で解決した後、内容を分類して集計し、クレームメモはそのまま一ヶ月ごとにまとめて該当部署に回付していた。そのため各部とも自分の部に関係あるものについては目を通すことができるが、他部署ではどんなことが問題になっているかわからなかった。また、社長や役員にはクレーム集計結果表を月報に記載しているだけで、具体的なクレームについては重大なものを除いて報告していなかった。

 マーケティング部にいたとき、入社後まもなくだったと記憶しているが、ちょうどクレームメモを読んでいるときに織田社長がいつものように部内にやってきたことがある。早瀬は社長から声をかけられるまで社長の来室を気づかなかった。そういえば室内が急に静かになったなとは感じていた。あわてて立ち上がり挨拶したが、織田は机の上のクレームメモの一つを取り上げ、早瀬だけでなく周りの社員にも聞こえるかのように言われたことを思い出した。

「早瀬君、お客様のクレームや問い合わせはわが社の財産だからな、おろそかにしないように」織田はさとす口調で、しかし厳しい目つきだった。

「はい」まわりには部員がたくさんいるのに、静まり返っていた。