八.火の国まつり ⑧

「あるオペレーターに用事があって、その子の席まで行くとお客さんと話中でね。そこでいつもしているようにメモを置いてきたんだよ、『電話が終わったら早瀬まで』と書いてね」

「へ¦」

「しばらくしてからおれの席の前あたりをその子がうろうろしているので『おい』って声をかけたら、その子なんて言ったと思う?『早瀬さんてどこですか?』だって、参ったよ」

「ハハハ・・・、馬鹿たい、そんなのがいると」

「ま、沢山いるからなかにはそんなのがいるかもしれんが、だから言ってやったよ『部長の名前ぐらい覚えとけ』って」

「しかし全くの馬鹿たい」

「情けない話だ。まだまだあるんだが、いつも厚化粧している子がいてね」

「ちょっかい出しなはったと」

「何言ってんだよ。その子が病欠した日の翌朝だけどね、俺がデスクで書き物をしていると欠勤届がぬっと目の前に出されたんだ。あそこでは欠勤届は以前から部長提出となってるんだが、『失礼します』とか『おはようございます』の一言もなくいきなりだからね。そこで欠勤届の名前を見て『昨日はどうした』と声をかけながらその子の顔を見ると、見たことのない別人が立っていたんだ。おどろいてもう一度届を見るとたしかにその子なんだよ。夢を見ているのかとさらにもう一度顔を見ると、病み上がりか化粧を全くしていないすっぴん顔は、かすかにその子の面影があったね。いや驚いた。ウチの奥さんでもあれほどの差はないよ」

「あきるる話したい」

「そうそう、衛生観念の強いオペレーターがいてね、とにかく消毒しまくってるんだよ。一応自分の席は決まっていても夜はそこにアルバイトが座ることが多いんだが、そうなると翌朝はアルコール除菌液かなんかを浸み込ませた布でデスクからヘッドセット、いす、机の引きだしまできれいにふき取ってるんだよ、これが」

「おかしか」

「クレームかなんかのときに、とくに男の社員が仕事で近くへ行って端末に触ったりヘッドセットを借りて付けたりするとこれはもう大変だ」

「へ~」

「この前なんかは、入金の件で書類を持っていくときにわざわざ手袋して手渡ししていたので驚いたよ」

「全く病的たい。ほかにもまだあると」

「そういえばこういうのもあったな」

「何ですたい」

「面白いってことではないんだが、オペレーターの言葉遣いが気になってね。お客さんと友達みたいな言葉遣いをする子がいたり、どこかの社長婦人に失礼な口の利き方をしたり」

「いまの若い女の子はどこでも一緒たい。しかし会社のオペレーターなら丁寧な言葉遣いをせんといかんたい」

「うん、私のすぐ近くに座っている元気のいい子がいるんだが、とにかくすごいんだよ」