十.ベルト・コンベヤー ②

 バイパス沿いにある物流本部は県下でもトップクラスの、そして通販業界でも有名なほどの広大な施設であった。早瀬はせっかく業界随一の物流部門の近くにいるのに物流、とくに通販物流についてはほとんど知らないのはもったいないと思った。そこで業務関連知識の拡充、つまり勉強の意味で本部長に見て回ることへの許可をお願いした。本部長からは「ただ見るだけでは表面的な理解になるぞ」と言われ、宅配課の小林係長をつけてくれた。

「係長、忙しいのに勝手なお願いで申し訳ないですね。一人で見て回るつもりだったんですが」自分の部下ではないし、どうやら彼のほうが年上のようなので少し丁寧な言い方をした。

「いえいえ、部長、私はこの前、出荷作業で腰を痛めて今は事務所に異動になってるんですが、まだほとんど仕事らしい仕事をしていませんから、実を言いますとヒマでヒマで。ですから大変助かっています」ニコニコしながら答えてくれた。

「へぇ、腰を痛めたんですか。大丈夫ですか」

「いえ、重いものさえ持たなければ、そしてあまり急に動かなければ大丈夫ですよ」

「じゃぁ、ゆっくりと歩きましょうか」

 話を聞くと彼は創業のころ以来の生え抜きで、配送部門のベテランであり物流部門に関しては非常によく知っていた。

 通販会社においてはカタログ作りは売り上げを左右する重要なものであるが、物流部門はコストに直接影響し顧客に直結する基幹部分である。しかし経費部門ではあるが利益を生み出す部門と言う意識を、本部長から教え込まれているとのことだ。

「受注して、商品をピッキングして、そして配達することはたいへん簡単なようですが、ここにもノウハウがあると思っています」

「なるほど。私は事務畑で物流のことはまったく知らないので恥ずかしい限りですが、いろいろとノウハウがあるのでしょうね」

「はい。いかに金をかけずに効率よくお届けするか、これが通販会社の利益の源泉となる、なんてよく出荷部の会議で話題になりますよ」

 たとえばお客さんからの注文について述べると、通信販売の受注はまさに通信での受注となる。最近はネットでの注文が増えてきたがそれでも全体の二割にとどまっており、受注の半分近くは封書やハガキである。封書での注文はハガキに比べて工数というか手間が余分にかかる。たとえば注文入力作業の前段階としての、ハガキ裏の注文記載面をそろえるという作業について見ると、ハガキを裏面にして上下をあわせるという簡単な作業となる。

 ところが封書の場合は最初に開封作業が必要となる。

サフィール創業から十年間くらいは手ではさみを用いて開封していたらしいが、自動開封機という便利なものが導入されてからは機械の力で簡単に封が切られるようになった。しかし封筒を揃えて中身をとんとんと下に降ろして機械に乗せるという作業は人手である。中身を下に降ろさないと注文用紙の端を切ってしまうことが生じる。また顧客が注文書を折り曲げて封筒に入れるときに、折線に沿った折りかたをせずに自由に折って、記入部分が封筒の上部にきたら開封時に注文部分が切れてわからなくなる。だからトントンが必要だ。次に開封して中身を取り出して、裏表と上下をあわせ、不要の封筒を捨てるという作業となり、ハガキに比べて工数は多くなる。

 さて、開封された状態の封筒はすぐ横にある開封係りに回される。開封係りはベテランのパートタイマーが八人ずつ一組になって作業台に向かい合って座っている。

開封部門について、実は面白いことをお教えしましょうか」小林係長が相変わらずニコニコしながら話し出した。

開封係りのパートさんの採用試験はユニークなんですよ」