八.火の国まつり ③
「石川次長、外部の調査会社の資料を見ると、一般的にお客様が通信販売会社に電話注文する時間としては、やはり夜が多いようだけどウチではどういう状態ですか」
「はい、時間帯別着信率と不通率を調べたデータ―があるのですが、いまの受付の時間内では朝九時から一〇時、次に一二時過ぎ、そして午後五時から六時がピークとなっています」
「それはウチの勤務時間内ではということだろう」
「はい」
「それでは、勤務時間外にどれくらい電話がかかってきているかわからないじゃないか」
「留守電の着信データは有るのですが、詳しいことはNTTに問い合わせたらわかると思います」
「じゃー、ちょっと調べてくれないか。それに、お客様からの要望は来ていないのかい」
「はい、お客様からのご要望の多いのは電話が通じないからもっと回線を増やせというのが一番多くて、次に夜間や土・日にも注文を受けてほしいというのが多いのですが」
「じゃーそのための手は打っているのかい」
「エ、はい、資料的には準備しているんですが、形としてはまだ何も・・・」
「それじゃーちっとも前に進んでないじゃないか」
「すみません。実は前の荒木部長に稟議書を提出したことはあるのですが、どうもそこでストップしたようで・・・」
「どうして?」早瀬はいらいらしながら気を落ち着かせようとした。
「荒木部長が、これはまだ提出は早いだろう、時期を見て出そうとおっしゃって」
「いつのことですか」
「はい、いや、もう一年になりますか」
「何を呑気なことを言ってるんですか。せっかく改善しょうというのに、それでは部下のやる気が無くなりますよ。それにお客様にも迷惑がかかるし、結局、会社のためにもならないんと違いますか」
「すみません」次長は肩を落として消え入るばかりであった。
「夜間受注については別途考えることにして、勤務時間内については人員態勢はそれに見合っているの」
「朝九時は社員もパートさんも出勤者全員が出ますので、比較的スムーズに受けていますが、昼は昼食交代が入りますのでやや混みます。一番の問題は夕方でして、パートさんが四時ないし五時で帰りますから、そのあと六時までがかなり混むのが現状です」
「それで何か手を打っているのかい」
「えー、混雑時は一人のお客様の処理時間を短くしてどんどん取るようにいっているのですが」石川は資料をとりに席に戻り、持ってきて見せた。
「それだけではだめと違いますか。このデータを見ると、朝九時と夕方の輻輳(ふくそう)率を比較して夕方がかなり高いね」
「はい、パートさんが勤務終了でごっそり抜けますと社員だけになりますから」
「いまどきそんな馬鹿なことしているところはないよ。繁閑に合わせて従業員を増減させるのは小売りやサービス業の基本中の基本ですよ」
「え、実はパートさんの勤務契約がそうなっているもので」
「じゃー変更してもらえばいいじゃないか。ウチは時間給が高いという評判だから人は集めやすいようだし、そういうことも考えるとそれなりのことはパートさんにお願いしてもいいんじゃないかな」
「 ・・・ 」
「いまいるパートさんはすでに契約しているわけだから、十分説明してできる人にお願いするという形を取るしかないだろう」
「はい」
「それともう一つ、根本的には朝八時から夜九時くらいまでは注文を受けられる体制が必要だと思うんだけどな」
「わかりました。人事部と相談してみます」
「夜間はアルバイトを大量採用してやればできると思うが、もっとも管理職は交代で残らねばならないだろうな」
夜間受注態勢について次長に早急にまとめさせ、稟議書として提出した。