四.ブロード・キャスティング ②

「もちろん、うちの場合は店舗が無いのでその点、打つ手は限られてくるけどな」

「しかし、次長も流通業界を渡り歩いているだけのことはありますね」

「何言ってるんだよ。で、ブラウスの欠品がとくに多いのかい」

「商品部の者に聞きますと、その商品提案をしたバイヤーは、これは売れるだろうと思ってシーズンに入る前に『適正な』量の発注申請を出したそうですが、部長や商品本部長の段階でかなりカットされたそうです」

「昨年は過剰在庫で苦しんだので、上のほうで少なめに調整したんだろうな」

「調整というどころか、一方的に減らされたと言ってますよ、バイヤーは。最初の発注申請量でいっていれば予測ぴったりだったなんて言ってますがね」

「ほんまかいな」

「まあ、後からは何とでも言えますが。それほどでなくても上の段階でもっと考えてやってほしいもんですよ」

「正論だが、エライ詳しいね」

「へへ、そのバイヤーというのは同期入社の仲間なんです」

「なるほど、で、緊急発注したんだろう?」

「そのブラウスは中国生産でしてね。いまから発注しても工場の空きラインがあるかどうか、あっても原反から入って製造して船便だと日本到着は二~三ヶ月後ですよ」

「三ヶ月もしたら季節が変わってしまうな」

「そこが海外生産の問題なんですよ。人件費の安い東南アジアで作るのはいいんですが、計画生産・ロット生産ですから小回りはきかず追加はきかず・・といった状況でして。例えば過剰在庫がはっきりしていても、商品を積んだ船が日本に着くと引き取らざるをえませんからね。泣きっ面にハジですよ」

「それはハチだろう」

「ハチって言ったでしょう」

「いや、泣きっ面にハジといいました。それこそ恥じだよ」

「まあ、いいじゃないですか」

「で、結局追加発注はどうなったの」

「本部長は慌てて、部長に国内生産を検討させたそうですが、国内生産となるとコストが上がりますからね」

「それはコストの問題ではないだろう。通販会社としての信用問題だよ」

「それで、今国内のメーカーと商談中らしいですよ」

「いまからではかなり遅くなりそうだな」

「もう一寸情報を仕入れてきます」

 堀は部長席のほうをチラッと見て、そういうとぺこりと頭を下げて出入口に向かって行った。