姓はボックス、名はマロン・・・猫との奮戦記(2)

2.飼い猫になるかどうか

いつもより早く帰ってきた息子がすぐに子猫の存在に気づいた。ミャーミャー・ニャーニャー小さいのにあれだけ高い音階で鳴くと誰でも気づく。それにしても土手の箱の中では静かだったが、あれは鳴き疲れていたのだろうか、それとも箱の中が暗かったからだろうか。

息子はすぐに母親にメールしたようだ。妻から電話があるに違いないと身構えていたが無い。そのうち妻が帰ってきた。

「車に轢かれそうだったので、ちょっとだけ、少し大きくなるまでうちで飼おうや」

妻に何か言われる前に先に言った。

「少し大きくなったら、姉にでも頼んでみようかと思っとんやけど」あわてて次の言葉を付け足した。

「どこに置いとん」妻が少し怒ったような顔で言う。聞くまでもないだろうに、先ほどから庭先でミャオーミャオうるさいぐらい鳴いているのだ。

「窓の外」

妻は網戸を開けてダンボールの中を覗いた。

「しょうがないわね」

それだけ言うと、台所に向かった。

二度目のほっとをして、思案した。姉が預かってくれるかどうか、くれなかったらどうするか。

 翌日、ホームセンターへ行き猫砂を買って来た。ついでにビニール製のペット用敷物を求め、自室の隅にそれを敷き、手持ちのトレーを置き猫砂を入れた。

しかしここでトイレするように躾るのが大変だろうな、と不安になりながら子猫をダンボールから出して、猫砂の上に置くと、なんとそこで尿をしたのである。たぶん前の飼い主が生後すぐにトイレの躾だけはしたのだろうな。その点だけ、前の飼い主に感謝。

 その翌日、妻は百円ショップで猫じゃらしやの首輪を買って来ていた。首輪のほうは一番小さな穴にフックしても子猫には大きすぎた。

風呂場で何か騒がしいので、何をしているのか覗くと、風呂桶に子猫を入れて洗っていた。蚤取りシャンプーが傍に有った。

「蚤が八匹もいたわ」と風呂場で声を反響させながら叫んでいる。

「頭は洗えないからまだ一~二匹はいるかもしれない」と、つぶやくように言った。

その夜、妻は「マロン」「マロン」と呼んでいる。何を言っているのかと思ったら、子猫の名前だそうだ。

「え、名前つけたん。いつまで置いておくかわからんのに」と私が言うと、

「名前なしじゃ、かわいそうでしょう。だから娘と相談して名前をつけたんよ」

「名前は仮にもうつけとるよ、ボックスいうて」

「何、その名前」

段ボール箱に入っていたからボックス。簡単明瞭でいいやん」

「そんな可哀相な名前付けんとって、ボックスやて」

 ネコ自身は自分の名前の意味なんか気にしないと思うが、これ以上争う気は無論ない。これにて命名はマロンと決まり。しかし私はひそかに「お前の姓名は、姓はボックス、名はマロン」と子猫に向かって命名式を挙げたのである。

それにしても女心は不可思議。あれだけ反対していたのに、飼うことに決めたようだ。安心した。