姓はボックス、名はマロン・・・猫との奮戦記(3)

3.マロン

 この子猫は生後数ヶ月にして忍者であり跳躍の選手である。小さいので少しの隙間をかいくぐって神出鬼没。高いタンスの上にも、いろいろなものを跳躍台にして飛び上がってくる。物を書いているそのペーパーの上にマッタク知らぬ顔して座る。パソコンに向かうとキーボードの上にすまして座り、画面上のポインターにじゃれる。ご主人様の邪魔をしているという気持は全く無いようだ。キーボードの上を動き回るので、画面はたちまち意味不明な状態となる。 パソコンのマウスを動かすと、まさにマウスを追いかけてくる。

初めの頃は私の部屋だけだったのが、すぐにどの部屋にも顔を出すようになった。居間には小型の室内犬がいるが、全く恐れずにじゃれついていく。ケンカはしないが、おとなの犬のほうが逃げ回っている。犬のベッドに入り込み昼寝をするので、追い出された犬のほうは途方にくれてうろうろしている。全く大人しいというか、だらしない犬である。

子猫は我が家の主人のような顔をして走り回る。そして困ったのが柱や部屋の角や、廊下の壁にて爪を磨き、さらに天井近くまで駆け上がることである。何時もなら妻はすぐ怒りそうなものであるが、黙って長いビニールのシートを買ってきて、それを切って廊下や階段周りの壁や角にピンで留めていった。

そういえば網戸も被害者である。網戸を駆け上がるのだ。つめを引っ掛けたところが少し開いてきている。これでは来年の夏はかなり蚊が侵入しそうで今から不安になる。

 窓の外の植木に小鳥がよく遊びに来る。それが子猫の本能を揺さぶるようで、しきりに外にでたがるようになった。朝、雨戸を開けるとき用心していても足元からぱっと飛び出す。呼んでも帰ってこない。しばらくして窓の外でミャーミャー、ミャーミャーうるさいほど鳴いて窓を開けさせ、王様のように堂々と帰ってくる。えさを食べるとまた外に出たがり、鳴く。うるさいので窓を開ける。それを知った妻は怒る。

「外に出したらご近所に迷惑やん。それに車に轢かれたらどうするん」

「出たがるもの仕方が無いやろ。車に轢かれたらそれも運命」

「なに言うてん。車に轢かれるからと拾って来ておきながら」

 大分旗色が悪い。おれに拾われたのもそのときの運命なら、その後事故で死ぬのも運命…と思っているのだが、通用しそうにない。

 次の問題はオスかメスか。ネコを抱きかかえてひっくり返してみるが判然としない。ネットで調べてみたが、専門家でも子猫の場合は間違うこともあるという。

「オスなら避妊手術しなくても済むからいいな」と妻に申し上げると、

「オスなら去勢手術やん」とはっきり通告された。来年はトラ年。このトラネコは自分の歳でありながら、新年早々、手術台に上ることになりそうだ。哀れである。