あまてらす 3.「死国」の秘密基地

死国」の秘密基地

 

あまてらすの「特別な任務」は、このような世界の研究者の共通した3大目標の調査及び探索ではなく、「地球の未来を見る」秘密探索プロジェクトである。そのため、日本の宇宙基地として確固たる地位を持つ種子島宇宙センターではなく、世界的にあまり知られていない四国の山中に2028年、私立の天文台として建設された。

種子島宇宙センターはこれまで通り気象衛星「ひまわり」や宇宙ステーション補給機こうのとり」をはじめ惑星探査機の基地として今も活発に使われている。いわば種子島は表の基地、四国カルスト研究所は裏の基地ともいえよう。

 この天文台と称する秘密基地は、四国中央部を東西に貫く四国山地四国山脈)にある。この地は中央構造線の南に千数百メートル級の急峻な山々が連なり荘厳な環境を形成しているため古代より山岳修行が盛んであり、弘法大師ゆかりの四国八十八ヵ所巡礼地であることでも有名だ。しかも巡礼地が四国山脈を取り巻いているので、いわば四国全域が霊場ともいえ、中には「死国」という漢字で表しその霊性を表す人もいる。いわば霊場エリアのほぼ中央部の宇宙基地であり、非科学的な表現をすれば「霊に守られた宇宙基地」ともいえる。

その四国山地の西部にカルスト台地がある。このカルストは、標高約1400m、東西に約25kmに広がり、西から大野ヶ原、姫鶴平、五段高原、天狗高原(標高1485m)に至り、なだらかな山肌には、夏は草に覆われ秋はすすきが一面に広がっている。台地は浸食作用により石灰岩が点在して露出し、乳牛が放牧され、見た目にはのどかな風景である。

そのカルスト台地の地下270mに日本の探査宇宙基地がある。空から見ると白い石灰岩の点在した中に小さな白い天文台のドームが見えるばかりである。地上にある建物はこのドームの屋根部分だけで、ドームは石灰岩の風景の中に溶け込んでいるようにも見え、まったく違和感がない。その近くでは牛がのんびりと草を食べている光景が見られ、まさかこの下に秘密任務を帯びた宇宙基地があるとは思えない。

四国カルスト研究所の基地建設とあまてらすの開発は日本の通信関係トップ企業創業経営者樺山道一氏が、自分の会社の持ち株と莫大なる遺産を生前贈与した巨額の基金がもとになっている。出資比率という観点から見ると樺山氏から提供された資金と、夢に賛同した財界経営者個々人による私的な寄付が9割を超えており、政府の関与が少ないためか建設の秘密が守られており、外部的には単なる民間の天文台建設ということになっている。

ちなみに国の資金は単に天文台の建設助成金ということになっている。予算審議ではなぜ四国の山に天文台が作られるのかという質問もあったが、それ以上の関連質問も無く通過した。樺山氏らによる莫大な資金は天文台下部の秘密基地に使われていることは秘密であった。

表面的には天文台として建設されたが、深地下工場の建設や探査船の組み立ては大阪や東京をはじめとする全国の中小工場に部品を発注し四国カルストで組み立てる、いわゆるファブレス的な建設工法に拠った。秘密を守るため、機具や部品は第三者研究機関を経由させたので、工場主たちはまさか自分の作ったパーツが四国に運ばれ、しかもカルスト台地の地下で宇宙船の建造に使われていたとは知らない。