あまてらす 6.ワームホールなら

ワームホールなら・・・


 ワームホール は、時空構造の位相幾何学として考えられた構造の一つで、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でありトンネルのような抜け道である。ブラックホールに落ち込むものは何であれ、特異点にぶつかって存在が潰滅してしまう。もしブラックホールが回転しているとすれば、中心のワームホールに命中して別の時空や宇宙にホワイトホールとして噴出する。

もう数十年前になるがアメリカの理論物理学者であるキップ・ソーン博士によると「通過可能であるワームホール 」を物理的に定義し「もし負のエネルギーをもつ物質が存在するならば、通過可能なワームホールアインシュタイン方程式の解として存在しうる」と結論し、さらに、時空間のワープやタイムトラベルをも可能にすることを示した。ただ、そのため通行可能なワームホールは自然なままでは一度きりしか使えない一方通行の道になってしまう。しかしもし通行のたびに旅行者が加えた擾乱の分だけワームホールに人工的な補正を加えて恒久的に維持し続けられるなら、相互通行に使用できるということも数値計算から導かれているとした。

早瀬博士たちはこの理論をさらに深化させ、探査船の帰りをホワイトホール経由にして、時空を超越させ、地球出発から13年以内に帰還することを考えたのである。

しかし、100年後の地球を見るということ自体、可能なのだろうか。

このプロジェクトは最初、提案者である早瀬博士と、研究員として若手の江波、秘書兼助手の中沢の3人という小規模でスタートした。当初、この研究所に誘われた各分野の研究者たちは、この構想を聞いてほとんどの者が参加を拒否した。

「100年後の地球を見るなんてことは不可能だ」「そんな馬鹿な話」

というのが共通の反応であった。ただ、この構想を聞いた樺山社長は、世の中に不可能はないということを信奉しており、一見ばかげた夢物語でも「try!(やってみなはれ!)」という主義である。そのため早瀬博士から時間をかけて詳細な説明を聞いたあと、出資を約束し、さらに財界仲間にも声をかけてくれた。さらに政界にも顔の利く樺山氏は補助金も獲得してくれたのである。

このプロジェクトにおいての問題は探査船であった。昔は日本やアメリカの探査船、たとえばはやぶさなどはかなりの遠距離まで飛んで帰ってきた。今ではもっと遠くまで飛んでいき、帰ってこれる技術が発展した。しかし光速船は研究段階であった。ところが22年前、理論的な光速推進理論が考え出され飛躍的な進歩を遂げたのである。

しかしあまてらすは光速運航だけでなく時空を超えねばならず、しかも逆時空越えの機能開発はさらに長年にわたり困難を極めた。それもカルスト研究所で、ワームホール理論の応用で理論的ではあるが20年前にできたのだ。この逆時空越え技術によって、100年後の地球を映し出し、映像を地球に送ることが可能となったのである。