ファラオの寝台②

「何でしょうか」

  木下のあとを追って会社に一つしかない応接室に入った早瀬は、ソファーに座りながら木下の顔を窺った。

  マーケティング部長の木下はあまり聞いたことの無いような仏教系の私立大学を卒業。地方の中堅スーパーに入社してその関連会社で勤務。五年前に平社員としてサフィールに途中入社後、ある売り上げ企画を直接社長に提案して売り上げアップに貢献。織田に気に入られ先輩社員や上司をどんどん追い越して、昨年、早瀬が入社する直前に部長に抜擢されたという。この木下の趣味はセミナー参加。東京で〇〇セミナーがあると案内があれば参加し、大阪で△△研修会があると聞くと出席し・・。部下のなかには「少しでも身につけていただければ」という悪口もあるが、逆に身につけられすぎていま以上に生半可な知識を振り回されたのでは困るという意見もある。

 早瀬はピーターの法則をよく思い出す。「自分の実力や能力以上の地位につくと、無能レベルに達する」「昇進は無能への道の一里塚」などというような諸法則である。もちろんこれは早瀬自身にとっても自戒の意味を持っているが、木下部長にしても出世が早すぎて、自分の知識不足や勉強不足を何とかしてカバーしようと、一生懸命にセミナーに行っているのではないかと思っている。