ファラオの寝台⑧

急成長の通販会社

            社員を監視するカメラ

  記事は織田のインタビュー部分が極めて少なく、カメラのことが中心であった。お客を信用する通販会社が実は社員を信用していないという趣旨で、本社内各室の天井につけられたカメラの写真入りで掲載されていた。

週刊誌を見た織田はすぐに記者宛て抗議の電話をし、社内のカメラとモニターをその夜のうちに撤去させた。

 もしこれが最近であればこんな記事は書かれなかっただろう。個人情報に関する法律ができて以来、セキュリティ上の問題で社内に監視カメラを設置するのは普通のことになったのであるから。とくに通路や出入り口、コンピューター室などにはあって当然という雰囲気がひろがっている。しかし当時は違った。

 便利な設備を取り外した後、これからどうして社員をチェックしていくのかを考え、そこで思い付いたのが投書制度である。

 誰が何をしているかということを、織田に代わって従業員の過半数を占めるパート社員たち相互に監視してもらって、さぼりや不正行為を見つけだそうと考えたのである。

(これはいい考えだ。投書制度はどこの会社にもあることだからこれなら週刊誌にかぎつかれても問題はあるまい)

という判断だったようである。すぐに総務部に命じて鍵つきの投書箱を作らせた。

  当初から無記名でもよいとしたので、主婦パートの多い部署、例えば商品をとり出すピッキング部門や電話応対部門などからはすぐに「告げ口」投書が入りだした。もちろん中には建設的な意見や提案もあったが、それはごく一部に過ぎなかった。この投書制度は延々と続き、早瀬の入社したいまも存続している。

  当初と変わった点は、箱の鍵を織田自ら開ける様になったことだけである。長い間、総務部もしくは秘書課の担当者が毎日夕方鍵をあけて、中身を取り出してそのまま織田のデスクに持参していた。担当者の中には書かれていることを知りたい誘惑に駆られることも有ったが、織田の人間性を知っているので我慢して読まずにそのまま運んだということもきいた。

  ところが早瀬が入社する前の頃から、織田が担当者に命じて、鍵を開けずに箱ごと織田の前に持ってくるようになったという。