2019-01-01から1年間の記事一覧

ファラオの寝台⑥

「仕事の話という訳じゃ~無いんですがね」メタボな体を後ろにそらせて木下が言った。 「はあ」 「うちの会社には投書箱というのがあるのは知っているでしょう?」 「悪名高きですか」 「次長がそんなこと言ったらいかんですね。建設的な意見の場合もあるんですから…

ファラオの寝台⑤

こういったビル構造で一般会議室が無いので、各部署のミーティングや打ち合わせは、フロアの面談テーブルの周囲に集まってするというスタイルが普通となった。 これは非常にオープンでいいという管理職もいたが、秘密が守れないことにつながっていた。ミーテ…

ファラオの寝台④

本社内の各階フロア内においては間仕切り類は一切無く、大部屋となっている。窓際に役員が座り、その前に部長クラス、そして課ごとの机があり、入り口の近くには面談用テーブルが置かれている。役員と部長には秘書の女性が一人ずつ机を接して座っている。こ…

ファラオの寝台③

五年前に建てた六階建ての本社は、ビル設計の段階で会議室や応接室の設置がほとんどカットされた。会議や社交辞令の来客応対というものは時間つぶしだと断言し、また中で何をしているのかわからない個室や応接室は不要だと考えている織田の指示があったよう…

ファラオの寝台②

「何でしょうか」 木下のあとを追って会社に一つしかない応接室に入った早瀬は、ソファーに座りながら木下の顔を窺った。 マーケティング部長の木下はあまり聞いたことの無いような仏教系の私立大学を卒業。地方の中堅スーパーに入社してその関連会社で勤務。…

ファラオの寝台①

「次長、ちょっと来てください」 いつも薄ら笑いをした顔にみえるメタボリックの木下部長が声をかけてきた。 この薄ら笑い顔は人によっては不真面目と受け取られるだろうなと、入社当時思ったものである。それに痩せ型の織田社長は太っている社員を嫌うという…

プレリュード⑨

「次長~ 」 書類に目を通していると甘ったるい声がした。見上げるとマーケティング部の才媛といわれいる生駒真弓である。 「はい、何でしょうか」気分のよかった早瀬は少しふざけた口調で返答した。 昨年サフィールに入社した時、部内で歓迎会を設けてくれ…

プレリュード⑧

カタログの送付は通販会社では最大のイベントである 。そしてカタログの出来の良し悪しで受注額は極端に変わる。 通販会社経営者の悪夢の最大のものは、シーズン前にカタログをユーザーに送付したあと、シーズンインしても受注がさっぱり来なくて、電話受注…

プレリュード⑦

織田のすわっている黒檀のがっちりとしたデスク(普通の事務机を3台並べたほどもある)と、中央大応接セットの間には折りたたみ椅子が30脚程3列に並べられている。これでインスタントに会議場となったりお叱りの場となったり、あるいは訓辞を受ける場所…

プレリュード⑥

500㎡もあるこの広い社長室は本社内各フロア同様、間仕切りや衝立ては無い。 その社長室に入ると、すぐ左側に秘書課があり課長以下6名が役所スタイルの配置で机を向き合わせて座っている。その左側の少し離れた窓際に社長室長のデスクがある。 中央部分…

プレリュード⑤

この本社ビルは熊本城に近いくまもと阪神デパートから道を隔てた場所にあった 。6階建てでエレベータは2機あるが、そのうち1機は荷物用である。人用の1機のエレベータを待つよりも階段を上った方が早いので、男子社員の殆どはよほどのことが無い限り階段…

プレリュード④

決裁の場には起案した部署の所管本部長(役員)・担当部長・次長、場合によっては課長以下も呼び出される。つまり案件ごとに織田と起案部署の幹部が向き合う形となる。 通常の会社ではよほどの案件でない限り、稟議書というペーパーが関係部署や役員のハンを…

プレリュード③

織田は完ぺき主義者であり、そして潔癖主義的なところがある。その織田の辞書には「拙速」という言葉はない。スピード重視の織田だが、手抜きでもいいから早くやれということには決してならない。「速く、そしてパーフェクトに 」というのが常日頃からの指示…

プレリュード②

売り上げ規模が年商1000億円を超える通販会社を率いる社長の織田淳一は、痩せ型のすらりとした身体つきで175センチの長身、その雰囲気は精悍ささえ漂わせている。脂の乗った57歳である。創業社長として会社の持ち株の大半を持つだけでなく、妻や子…

メーキング通販  1.プレリュード①

一.プレリュード 「社長決裁です」 いきなりかかってきた電話の声は事務的であった。 社長秘書の井上は自分の名前も言わず、こちらの返事も聞かずに電話を切った 。 「勝手に電話切って失礼な奴やなー、決裁言うても何の決裁かわからんじゃないか」 マーケ…

メーキング通販・・・いよいよ掲載開始します。

スーパーから通販会社に転職した主人公が、当時の日本における新しい業態である、カタログ通販の業務にチャレンジしていく姿を書いています。 通販勃興気の活気ある状況、通販の仕組み、急成長中の会社の姿をいきいきと書いています。どうぞこういう会社があ…

姓はボックス名はマロン・・・(4)奮戦10年

4.それから10年後 今の感想は? 飼って良かった? いいえ、大変でした。 被害その1.マロンは布を食べるのです。見ていると寝ているときに近くにある布地をまるで夢見心地のように目をつぶって食べています。量的には多くないのですが、大きいのでは4…

姓はボックス、名はマロン・・・猫との奮戦記(3)

3.マロン この子猫は生後数ヶ月にして忍者であり跳躍の選手である。小さいので少しの隙間をかいくぐって神出鬼没。高いタンスの上にも、いろいろなものを跳躍台にして飛び上がってくる。物を書いているそのペーパーの上にマッタク知らぬ顔して座る。パソコ…

姓はボックス、名はマロン・・・猫との奮戦記(2)

2.飼い猫になるかどうか いつもより早く帰ってきた息子がすぐに子猫の存在に気づいた。ミャーミャー・ニャーニャー小さいのにあれだけ高い音階で鳴くと誰でも気づく。それにしても土手の箱の中では静かだったが、あれは鳴き疲れていたのだろうか、それとも…

姓はボックス、名はマロン・・・猫との奮戦記

1.箱入り娘?息子? 夕方の散歩タイムを告げる吠え声がしてきた。愛犬ハリーの楽しみは散歩とエサ。犬にとってのこの大きな楽しみは、何人といえ削除するわけには行かない。 九月とはいえまだ真夏の延長にあるような夕陽を浴びながら、香東川の土手を歩い…

あまてらす 8.地球の存在

地球の存在 太陽の燃料はおよそ100億年分で、今までに46億年たっている。あと50億年余りで燃え尽きるが、その前には半径が100倍以上になって明るさも数千倍になる。水星と金星は飲み込まれ、地球は蒸発。 そして、その後太陽は小さくなり暗く超高…

あまてらす 7.通信回復!

通信回復! 「ワームホール通過予定まで10時間」 指令管制センターの前面に大きく表示が出た。 計算では明日の午前3時に通過して出てくるはずである。そのため、深夜にも拘わらず室内にはこの研究に参加したすべての研究者が全国から集まって来ていた。 …

あまてらす 6.ワームホールなら

ワームホールなら・・・ ワームホール は、時空構造の位相幾何学として考えられた構造の一つで、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でありトンネルのような抜け道である。ブラックホールに落ち込むものは何であれ、特異点にぶつかって存…

あまてらす 5.100年後の画像

100年後の画像? 先ほどの理論を単純化して考えると、宇宙船内で光速度1ヶ月間生活すると、地球では1年経過ということになる。その計算で行くと、100年後の地球を見るためには光速度100ヶ月、つまり8年4か月ばかり光速宇宙船で逆行して過ごすと…

あまてらす 4.浦島太郎現象

浦島太郎現象 さて、高性能のTMT望遠鏡で1億年前の惑星を見ることは、容易である。たとえばある惑星Aを望遠鏡で映し出すと、そこに出てくる映像はA星の1億年前の状態を映し出しているというたとえができる。1億年前と言わずにもっと近いB星は1000万年…

あまてらす 3.「死国」の秘密基地

「死国」の秘密基地 あまてらすの「特別な任務」は、このような世界の研究者の共通した3大目標の調査及び探索ではなく、「地球の未来を見る」秘密探索プロジェクトである。そのため、日本の宇宙基地として確固たる地位を持つ種子島宇宙センターではなく、世…

あまてらす 2.未来探査船

未来探査船 探査船あまてらすは無人宇宙船である。もちろん日本の優れた宇宙船技術によって有人でも打ち上げることは可能であったが、任務の特殊性とブラックホール通過による帰還の困難性、及び光速での飛行により、もし帰還できたとしても地球に降り立った…

あまてらす 1.西暦2046年

西暦2046年。 「本日、通信なし」 「本日、通信未着」 というのが毎日の報告となって久しい。 研究所では、すべて予定通りに飛行しているという想定の下できわめて少人数による日常の運営が行われており、別に毎日「通信なし」と報告することもないのだ…

100年後の地球? 宇宙探査船・地球環境・「死国」

あまてらす 四国のカルスト台地に天文台が建設された。 しかし、ここは実は秘密の宇宙探査船基地であった。開発責任者の宇宙天文物理学者である早瀬博士は財界からの寄付をもとにこの基地を建設したのだ。その目的は100年後の地球を撮影して、その映像を…